書名:「作りすぎ」が日本の農業をダメにする
著者:川島 博之
発行所:日本経済新聞出版社
発行年月日:2011/8/24
ページ:239頁
定価:1500円+税
21世紀は食糧危機の時代とか、輸入に頼っている日本は食糧危機に耐えられないという脅し文句ばかり聞かされてきた人々にとっては、目から鱗という話です。著者は「食料は世界的に余剰生産になっている」という。あらゆるデータの分析から持論を述べています。農業問題が解決できないのは、「世界で食料が余っている」という事実を知らない。知らされていないからだと言う。
経済成長をすると貧困国でも食料の増産が可能になって一人当たりの生産量は増加している。経済的に豊かになると出生率は低くなる。人口増は食料が供給されるので人口が増える。逆に言うとアメリカのように人口の1%の人が食料を供給して99%の人が食べられるようになっている。その上輸出に回す分もある。それでも有り余る食料があったので、バイオマスエネルギーにという政策もとられた。バイオマスエネルギーはプロパガンダで、実は食料の値上げを意図していた。
日本も1950年頃から食料が過剰に生産できるようになってきた。農村の人口はどんどん都会へ移動した。何の政策も採らず、そのままにしたら離散農家が続出して、農民1人当たり20ha、30haの農地を持って大規模農業が出来たかもしれない。しかし生産者米価、消費者米価と政府がコントロール(差額は税金の投入)して農家を兼業農家に移行する政策を採ってきたことで、地方にも人々が住むことが出来ている。都市部と地方部の所得格差を最小限にした。現在の中国では都市部と農村部の所得格差は天文的な差になっている。何もしないと市場経済の原則で、農村には人が住めなくなってしまう。科学技術の発達で農業の生産性が著しく向上している。1人あたりの生産量が大きくなっているので、そんなに人がいなくても供給が可能な状態になっている。それは1950年代以降人類が始めて経験したこと。
日本の食糧市場は10兆円程度、お米は1.8兆円。大企業一社分位な市場規模。そんな市場を自由化してもしなくても対して輸出国にとってはそんなにメリットを感じない市場。また労働市場と考えて魅力あるところではなくなっている。簡単にいうと農業を地方の活性化にするには無理がある。
地方の活性化と農業問題は別に考えないといけない。
一日に10万人が飢えて餓死している。等報道されているが、実は世界中で、食料は余っている。そしてこれが、先進国を中心に深刻な農業問題を引き起こしている。(TPPなども)。飢えているのは政治体制、紛争、インフラのせいで食料がないからではなく。分配がうまくいっていないことによる。道路、水道などのインフラの整備を行うためには国内の政治が安定しないと出来ない。今、食糧危機で困っている国は不安定な政治下にある。先進国が飽食をやめたところで解決できる問題ではない。世界中で13億トン(食料生産の1/3)食料が廃棄されている。なぜ廃棄できるのか、生産過剰になっているからともいえる。
年間1人当たりの食品ロスは、北米が115キロ、ヨーロッパが95キロに対して、南・東南アジアは11キロ、日本15キロ。これが多いか少ないか?日本の農業の今後について著者は大規模化が出来ない日本(兼業をやめない)では土地の面積が少なくて済む農業(野菜工場、畜産、鶏肉)などに特化して少ない人数で生産効率の向上ができるものが有力と言っている。今度の選挙の争点にもなっているTPPを考える上でも参考になる本です。
はじめに
第1章 食糧危機は訪れない-歴史的視点から見る
第2章 食料は過剰生産されている
第3章 過剰生産が農業問題を引き起こす
第4章 地方を重要視した日本農業
第5章 競争力がない日本の農業
第6章 これからの日本農業を考える
おわりに
参考図書・文献
読書メモ
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「1950年頃から単収が急増」
「穀物単収は人類が農耕を始めてからずっと1トン/ha程度でした。~中略~。その単収が1950年頃ごろに1.5トン/haであったものが、21世紀には8トン/haになったのです。たった50年間で6倍になりました」
「1972年のインドの合計特殊出生率は5.35。2006年には2.80」
「インドネシアも1969年の合計特殊出生率は5.61。2006年には2.59」
「タイにおける低下はもっとドラマチックです。1969年には6.11だった出生率が、2005年には1.89」
「GDPの伸びからすると食料価格は安い」
「1日に必要なカロリーは小麦30円分」
1kgの肉を得るのに「牛肉の飼料は10kg、豚肉の資料は5kg 鶏肉の飼料は2kg」
日本の農業の抱える三つの問題点は、
①労働人口の減少と高齢化
②低い自給率
③高コスト体質
三つは相互に絡み合っているが、根は一つで、「世界で食糧が過剰生産気味」ということから生じている
この半世紀、食料に生産革命が起きた。単位面積当たりの収量は急速に上がり、食料が余りだした。農薬、肥料、機械はじめ技術が発達し、担い手も少なくて済むようになった。江戸時代なら100人の食料を作るのに85人がかかわる必要があったが、今や必要な数は一人か二人。
作りすぎれば、価格は下がる。価格が低下したら、数を売らないと儲からない。ところが、人が食べる量はほぼ一定だから数は増えず、農民が豊かになるためには、価格が上がっていかなければならない。だが、作りすぎが起きたために価格は上がらない。人口が減る社会だったら、売り上げはなおさら落ちる。
地方の農業振興には人口減の覚悟が必要--『「作りすぎ」が日本の農業をダメにする』を書いた川島博之氏(東京大学大学院農学生命科学研究科准教授)に聞く | オリジナル | 東洋経済オンライン | 新世代リーダーのためのビジネスサイト
http://toyokeizai.net/articles/-/7749