書名:「質の経済」が始まった 美の日本、カネの米中
著者:日下公人
出版社:PHP研究所
発行年月日:2005.5.27
価格:1400円+税
久々に日下公人の本を読んだ、この人の場合人、世の中よりかなり先に行って
いる人なので、発刊されてすぐ読むより世の中が追いつく手前あたりで読んだ
方が分かりやすいかも知れない。東京オリンピック以降の日本経済をマクロに
概観しながら国家が使った3000兆円の半分は無駄と言い切る。いちいち納得す
る。青函トンネル、高速道路、新幹線等々一度決まったことは決して撤退のな
い仕組み。次々と作る、開発するのは得意だが撤退が下手。国の富を次世代に
繋いでこなかった仕組みに大きなメスを入れている。またグローバルスタンダ
ードに対しては事例を挙げて分かりやすく、日本の仕組みの方が先に進んでい
ることを説明してくれる。日本もそんなに捨てた物ではないよ。
中級品を作る国ではなく高級品、芸術品を生産する国としての活路を見つけろ
と言っている。30年ほど前の新文化産業論以来日下ファンですが、老いて益々
冴えてきているという感じで読んだ。
本書より
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東京オリンピック以降の日本経済
名目国内総生産額累計:110409兆円
国及び地方の歳出額累計:3859兆円
(補助金、地方交付税など国から支出を800兆円)
純額 3000兆円
国の歳出額累計:1793兆円
地方の歳出額累計:2066兆円
国及び地方の税収額累計:2060兆円
国の税収累計:1285兆円
地方の税収累計:775兆円
国及び地方の債務残高合計①:717兆円
国の長期債務残高(2002年度末):518兆円
地方の長期債務残高(2002年度末):199兆円
財政融資資金残高②(2002年度末)413兆円
①+②=1000兆円
1965年度から2002年度の38年間の累計数値
本書22ページ(東京財団研究推進部)
長期期間で見る、100兆円単位で見る。国民が富を生み、誰が無駄に使ったのか?
政治家と役人の無駄づかいを減らせば日本経済は回復する。国家が使った3000兆円
の半分以上は無駄。「巨大なものや超長期は見えない」ことを悪用した政と官
政治家と役人の悪知恵を看破する4つの方法
1.動機で見る
2.結果で見る
3.関係者で見る
4.理論づけのインチキを見る
動機が不純で始まった仕事はやはり失敗する。
73ページ
薩長の人たちが政府の制度を作ったとき、一番最初に出来たのは司法省、大蔵省
、外務省海軍省、陸軍省、内務省、文部省といった組織で日本に限らずこれらが
、国家の一番の基盤である。
農商務省、商工省、それから国家自身が事業をするようになると鉄道省とか逓信
省、さらに昭和18年になると福祉もやろうと内務省から分離して厚生省が出来
る。こういう順番に出来てくるわけで、昔からあるほうが、国家の基幹だと見る
と分かりやすい。
日本は資本主義と人は思っているが、実際は「人本主義」である。
人間本位である。資本なんかないのに無理矢理工業化したのであって、日本は資
本なき工業化である。すると低賃金長時間労働で我慢して働くしかない。後進国
は「それは嫌だ」というから発展しない(かわりに「援助をくれ」という)とこ
ろが、日本人は嫌だとは言わなかった。低賃金労働をやると決心した。「資本は
自分の手でつくる」と考えた。だから日本の会社が資本主義らしくなるのは二十
年後、三十年後である。
貰うべき賃金を貰っていないのである。だから「この機械は・設備はみんなもの
で、株主のものではない。」つまり、「会社はみんなのものだ」というのが日本
の雇用関係の基本である。
株主権、代表訴訟が日本の現実に合わない理由
日本型雇用形態の三種の神器・・・終身雇用。年功序列型賃金。企業別労働組合
もっとあるよ「生え抜き」
「科学的」より、人間の直感力の方が上
科学的というのは実に不自由なもので、人間が持っている英知の半分も使えない。
科学的に書き上げると、最初にあった味やニュアンスが全部落ちてしまう。潤いも
落ちてしまう。そう思いませんか?
「科学的人事政策」とか「合理的人事システム」とかの美称に酔うなというのがあ
る。そもそも科学には「真理究明」と「分析」という二つの特徴がある。それを人
間や社会に対して実行すると、生きた人間をレントゲン写真でみるような失敗に陥る。
仏教では「それは愚問だ」という返事が許されているが、科学にはそれがない。自
然科学が真実の究明に挑戦し続けているのは尊いと思うが、社会科学については
「それは愚問だ」という場合が多々あると思う・