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海岸列車
« 投稿日:: 3月 01, 2013, 10:34:04 pm »
書名:海岸列車(上)
著者:宮本 輝
発行所:毎日新聞社
発行年月日:1989/9/30
ページ:362頁
定価:1165円+税

書名:海岸列車(下)
著者:宮本 輝
発行所:毎日新聞社
発行年月日:1989/10/30
ページ:321頁
定価:1165円+税

両親が離婚してその父も幼い時に亡くなってしまった。父の弟(叔父)に育てら
れた兄(手塚夏彦)と妹(手塚かおり)の物語。物語は叔父が亡くなるところか
ら始まる。叔父は銀行副頭取を経て、退職して著名人など昔の人脈を使って講演
会などを会員制で組織する団体モス・クラブを設立して老後の活動をしていた。
会員800人、職員35人の所帯を率いていた。その叔父が亡くなった。叔父の手伝い
をしていたかおりが後を嗣ぐことが決まった。25才の若い会長が。兄は副会長、
東京事務所長という肩書きはあったが、実際はモス・クラブの仕事は叔父任せ、
年上の有閑マダムのヒモのような生活をしていた。しかたなくかおりが会長を引
き受けることになった。

その叔父の葬式が終わった後、かおりは一人で山陰本線に乗って「鎧」という駅
に行く。そこはかおり兄妹の母がいると叔父が教えてくれたところ。叔父が生き
ているときから兄は兄で、かおりはかおりで何か迷うことがあるとそこを訪れて
いた。でも母には会わずに、駅についてそこに置いてあるベンチに座って、そし
て帰ってくるというだけ。
そんなとき城崎の駅で戸倉陸離という弁護士と出会う。かおりが一人でモス・ク
ラブの経営を本気にやろうと決意する。そして兄夏彦がアフリカの砂漠に植林、
農園を作るプロジェクトに挑戦しようとする過程を二人が出会う人、出来事を綴
っている。宮本輝の小説は結論のない物語が多い。この小説もやっぱり結論は?
長編ですが読みやすく、どんどんと興味を読み終えてしまった。

本書より
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 「自分は必ずモスクラブの会長として、北京で劉慈声と再会してみせるって決
意したら、きっとそのようになるでしょう。」
 「決意ですか?」
 「そう決意です。このようにしたいと望むのと、こうしてみせると決意するの
とでは、結果が違うんです。決意しなきゃあ」

「生きるにあたって、何等かの依りどころを持っていない人はないであろう。人
間は、必ずや何かを依りどころとして生きているはずである。(略)そして、いっ
たい何を依りどころとするかで、一つの人生の方向も、その行き着く先も変わっ
てしまうということは、またまぎれもない事実なのだと思う。」

「人間には、生と死以外に大切なものなんてないと思った。生と死をめぐって、
人間の妄想が、どうどうめぐりをしている。でも、おんなじように、生と死をめ
ぐって、奇蹟みたいな実体も動いている。」