投稿者 スレッド: 日本文学全集 獅子文六 てんやわんや 娘と私  (参照数 422 回)

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日本文学全集 獅子文六 てんやわんや 娘と私
« 投稿日:: 7月 06, 2016, 09:08:42 pm »
書名:日本文学全集 獅子文六
   てんやわんや
   娘と私
著者:獅子文六
発行所:新潮社
発行年月日:1969/10/30
ページ:621頁
定価:不明

この本は獅子文六が敗戦後約2年間、長女や妻と共に、妻の実家があった愛媛県南西部の岩松町(現宇和島市津島町岩松)で暮らした。そこで生まれた小説「てんやわんや」「娘と私」の2作品が収められている。深刻な食糧難と住宅難、そして作家として戦時中に書いた小説「海軍」で戦争責任を問われる恐れがあり、びくびくしながら追い詰められて隠棲していた。

「てんやわんや」はその隠棲体験をユーモアたっぷりに主人公犬丸順吉が、土地の素封家に食客として厚遇され夢のような生活を送る。個性豊かな住民たちと織りなす笑い、恋あり、ドタバタ生活、次第に戦後の農地改革などで土地の素封家も持ちこたえることが出来なっていく。戦後の世の流れは四国の田舎町にも及んでくる。臆病で気は小さいが憎めない犬丸順吉の目を通して戦後の一コマをおもしろおかしくそしてかなしく描いている。

もう一作「娘と私」は
タイトルは「娘と私」だが、「妻と私」、「妻と娘」の話でもある。この妻と娘に、血縁関係は無い。娘は先妻の遺児であり、その先妻はフランス人。つまり娘は混血児である。私小説のようにみえるが「私」という主人公(作者の投影)が男手ひとつで娘を育ていこうとするが、まだ小説家として筆一本で生活が出来るだけの収入は無い。親の遺産を取り崩しながら、費用の掛かる私立のキリスト教の小学校に娘を入学させる。そして寄宿舎にいれる。ほっとしたのも束の間、学校の生徒や先生達に混血児故に疎外され、病気になってしまう。娘の看病と家事に追われた「私」は収入のための創作もままならぬ赤貧一歩手前の状態となり、文士をあきらめて勤めにと考えるがままならず、娘を育てるためにも、自分の創作生活を確立させるためにも、女手の必要を強く感じる。

作者の投影である「私」は男手ひとつで娘を育てようとするが、まだ筆一本で食っていけるだけの収入は無く、親の遺産を取り崩してなんとか生活を維持している。それなのに娘が混血故に疎外されることを恐れて費用が安くはないキリスト教系の私学に入れ、さらに創作に専念するために、寄宿舎に入れる。だが娘は病気になり、寄宿舎を出なければならなくなり(このへんでそんなに書いて大丈夫か、と思うくらい学校や先生の悪口を言っている)、さらに年に何度も入院する事となり、娘の看病と家事に追われた「私」は収入のための創作もままならぬ赤貧一歩手前の状態となり、文士をあきらめて勤めに出ようとするもままならず、娘を育てるためにも、自分の創作生活を確立させるためにも、女手の必要を強く感じる。

娘の世話、そして「私」の創作の仕事を助けてくれる。おとなしそうな女性を後妻に選ぶ。その妻と娘と「私」の物語。その娘が大人になり、一人の女として成長したところまでを描いている。どちらの物語にも四国に疎開して過ごした生活が描かれている。獅子文六の筆の確かさ、文章のうまさが際立つ作品です。