投稿者 スレッド: 川あかり  (参照数 276 回)

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川あかり
« 投稿日:: 3月 16, 2015, 09:03:24 pm »
書名:川あかり
著者:葉室 麟
発行所:双葉社
発行年月日:2011/1/23
ページ:331頁
定価:1500円+税

派閥争いの渦中にある上司から斬れと命じられた。報酬は500石の跡継ぎ娘のとの婿養子。相手は対抗派の江戸家老。藩内で一番臆病者と言われ、自分でも自覚している伊藤七十郎という若き侍。家老が江戸から国に入る前に討つべく隣の藩の川岸まで来たところで川止めにあい。仕方なくぼろぼろの木賃宿に逗留する、家老も対岸で待っているはず。川明けを待つ間に市井の人々と会い。いろいろなことを学習する。相部屋になった人達は一癖も二癖もある不審な連中ばかり、油断が出来ない。そしてそれらの人達の会ってきた苛酷な現実を知る。対岸の村の元庄屋と孫の姉妹、その村で塾の師匠を務めていた者、塾の塾生らだった。

その村はある年の大雨で川が氾濫しかかったとき、下流の藩の覚え目出度き村、商人の支配する村のため、役人たちから土手を切り開き自分たちの村に水を流して、下流を救うということをやらせられていた。そしてその洪水によって何とか生活が出来ていた村には大変は被害にあって、洪水でなくなるもの、田畑が流れ四散した者と村は再建できないままの状態だった。元庄屋は自分の資材を擲って救済にあたるが、下流の村の商人にも騙され全財産を失ってしまう。そんな目あった連中がこの宿で川開けを待っていた。そして村民を救うために実は盗賊となって金持ちの家に忍び込んでは金銭を掠めていた。

そんな連中を相手に、時を過ごしながら川開けをまっていた。間男を引き込んでいたと間男を斧で殺した夫が妻を追って、この木賃宿に乗り込んできてみんなを脅した時、気弱な七十郎は相手の言うとおり両刀を相手に差し出す、でも手裏剣で相手を捕まえた。また江戸家老側の刺客が七十郎を殺しにやって来た。藩内一番の使い手、絶体絶命のピンチ。
臆病者が律儀に自分の信念をてこでも曲げない。逃げ出さない。元々この臆病者を選んだのは失敗させるためということ、婿養子も嘘と分かりながら、どんなみっともない結果になろうとも、全力をつくすのみ「それがしは刺客でござる」と叫んでいた。馬鹿な若者の一徹不思議に憎めない。なかなか面白い物語です。

本書より
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「日が落ちて辺りが暗くなっても、
 川面だけは白く輝いているのを見ると、
 元気になれる。
 なんにもいいことがなくっても、
 ひとの心が残っていると思えるから。」