書名:岡田英弘著作集Ⅴ 現代中国の見方
著者:岡田 英弘
発行所:藤原書店
発行年月日:2014/10/30
ページ:583頁
定価:4900円+税
中国の歴史は前221年秦の始皇帝から始まる。日本の歴史も天智天皇が白村江の戦いで完敗して東アジアから撤退した時点から始まる。(文書記録として残っている)そして日本と中国はそれ以来正式な国交は日清戦争後の条約で始まる。遣隋使遣唐使なども国と国との国交では無かった。また足利義満の明との交易も国交と呼べるものではなかった。実は日本と中国が関わるようになってきたのは明治になってから。白村江の戦い以降隣人との付き合いは極力しないようにしていた。
眠れる獅子清朝が日清戦争で日本に敗れ、馬鹿にしていた日本が西洋化を30年くらいで急速に行ったことに驚いて、清朝も西洋化を必死に考えて、科挙を廃止して日本に毎年5000人位の留学生を送った。そして留学から帰った人を政府に採用して国を強くしようとした。結果清朝の費用で日本に留学していた人達が辛亥革命を起こし、清朝を滅ぼしてしまう。そして軍閥が割拠する時代に突入。ロシアも日露戦争に負けたロマノフ王朝、ロシア革命で滅びてしまう。いずれも日本が深く関係がある。
中国もロシアも日本の歴史が始まって以来一度も国交の無かった国、それが明治後半から関わりを持つ国になってきた。日清戦争の相手は清朝、日露戦争はロマノフ王朝こんな当たり前のことを忘れて中国と理解すると全く違ってくることを教えてくれる。
領土問題、歴史認識問題など現代の中国との間にある軋轢、それをどう見るのか?日清事変は蒋介石の国民政府との戦い、太平洋戦争は中華民国との戦い。そして戦後国民政府と共産党の戦いでようやく毛沢東が出てくる。その戦いに敗れて蒋介石は台湾に。このときソ連が強力に毛沢東にてこ入れした。そして戦後1970頃までの中国は霧の中、中味は殆ど見えなかった。理想の共産国というイメージを持って語られていたこともある。文化大革命も何のことかよく分からなかった。この本では中華人民共和国の成立、そして毛沢東の行ったこと。そして共産党内のすさまじい権力争い。毛沢東、周恩来、林彪、江青、劉少奇の失脚、鄧小平の台頭など生々しいことが書かれている。
それも1970年代に。その時代殆ど中国の情報が無かった時代。ニクソン、田中首相の日中国交樹立の裏、台湾の扱い秘話。そして鄧小平の国内向けと国外向け発言。天安門事件、教科書問題の内幕(これは外交の問題のようで実は中国の国内問題、鄧小平派に対する反対派の攻撃)などを詳細に論じられている。今日でこそようやく白日の下に明らかになりつつあるが、40年前からこれを見抜いて警鐘を鳴らしていた!先見の明がよく分かる。現在起こっている中国との問題の根源がこの本に見えてくるような気がする。そして対応の仕方にも大きなヒントがあるように思う。隣人は実は一番遠い付き合いがちょうど良い。グローバル化されたからと言って歴史から考えることが必要だと。またアジアという視点もあまりにも違いすぎることを考慮すべきだと。500ページ以上の大冊ですが、一気に読んでしまいました。
本書より
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「どの国でも言われることだが、外交は内政の延長である。しかし、中国の場合はそれがさらに極端で、外交は『内政そのもの』である」
「シナには正義という観念がない。それに当たる言葉もない。『正義』という漢字が意味するものは、時の政府が公認した解釈ということであって、英語のジャスティスではない」