書名:葬られた王朝
古代出雲の謎を解く
著者:梅原 猛
発行所:新潮社
発行年月日:2010/4/25
ページ:318頁
定価:2200円+税
40年ほど前の自著「神々の流ざん」集英社で「出雲神話なるものは大和に伝わっ
た神話を出雲に仮託したものである」という主張をしていた。またそれは「津田
左右吉(1873-1961)」の説「出雲神話ばかりか日本の神話そのものを全くフィク
ションと考える」と変わりが無かった。近年の出雲地方から続々と遺跡が発掘さ
れ新たな事が見えてきた。それを踏まえて梅原猛流視点で出雲王朝を見直した書
であり。自説を覆す書です。
記紀神話のさらなる読み込み、古事記の本居宣長説への反論、津田左右吉説への
反論を物理的な証拠(遺跡出土品)、出雲風土記、播磨風土記などを元に述べて
いる。記紀の成り立ち、古事記に書かれている内容、成立の仕方など藤原不比等
が大きく関与している。しかし太安万侶、舎人親王などに隠れて決して主役には
付かなかった藤原不比等。稗田阿礼は藤原不比等だったという説。古代出雲王朝
は出雲、近畿、越の国などを支配していた。スサノオを始祖としオオクニヌシで
大和(天照大神)に国を譲った(征服された)。その後出雲地方を治めていた出
雲王朝が存在したということを論究している。
記紀の編纂、平城京遷都、大宝律令の制定、興福寺・春日大社などを企画実行し
た藤原不比等。藤原氏の子孫の未来永劫まで繁栄させるための布石をいろいろと
打った。不比等の一族には藤原性を、その他の藤原には中臣性を、政治は藤原、
祭事は中臣と役割を分担させていた。大和王権の主役には絶対出てこない藤原氏
(影に徹する)の原形を作った人物として不比等を想定している。また神話の中
に出て来るオモイカネは不比等を摸したものだと仮定している。今後の研究にお
いて出雲王朝のことも段々分かってくると思うが、その謎に大胆に挑戦した良書
であると思う。