投稿者 スレッド: 近世大名家臣団の社会構造  (参照数 566 回)

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近世大名家臣団の社会構造
« 投稿日:: 7月 24, 2016, 09:13:51 pm »
書名:近世大名家臣団の社会構造
著者:磯田 道史
発行所:東京大学出版会
発行年月日:2003/9/19
ページ:397頁
定価:9400円+税

この本は値段も凄いが中味も凄い。著者が全国を行脚し集めた膨大な史料を分析して江戸時代の藩に仕える武士の実像に迫る力作です。

儀礼、禄高、婚姻、養子縁組、相続の実態を古文書から分析して、武士とはどんな人を武士としていたのか?士農工商とは別に武士社会の差別とは?興味ある分析が一杯です。武士は侍、徒士、足軽以下の三層から構成され、通常足軽以下は武士とは扱われていない。侍、徒士はお互いを何々殿、足軽は上位のものには何々様。土下座もしないといけない。外見から見ると、武士は裃をつけ、袴をはいて、二本差し。足軽以下は着流しに、一本差し、足袋もはかない。

侍、徒士は結婚も20代前半、足軽になると30代に。貧乏人子だくさんは嘘だったようです。それなりの収入のある侍は子だくさん。当たり前といえば当たり前か?
また婚姻にしても、養子縁組にしても同格同士が殆どで2倍以上の収入格差での縁組みは殆どなかった。特に江戸時代中後期になると、格式が重んじられて仕来り、仕組みが重視されている。そんな硬直した時代にペーリー来寇などをきっかけに幕府が滅んだ。しかるべくして起こった結果かもしれない。
今、残っている藩の婚姻届などを詳細に分析した本書は説得力がある。今までいだいていた違った江戸時代感がみえてくる。古文書の釈文などで記述してあるところも多いのでちょっと読みづらいかもしれない。でも原資料に近づくことによって納得出来ることが多い。また江戸時代の侍社会も結構きっちりと記録を残していることが判る。

侍、徒士は親の石高で息子も同じ石高という世襲、如何に侍、徒士の身分を保護するためにいろいろな仕組みを作ってきたことが判る。足軽以下は一代限り、でも足軽株を設けて売り買いが出来た。また関原の戦い当時からの足軽は譜代足軽という身分もあった。でも大抵の足軽は農民、町民から、そして農業、商業などしている足軽は徒士より実収入が多いこともある。でも身分は低い。
江戸時代の特徴の一つに権力ある人(身分が高い)は収入が少ない。財力のある人(身分は低い)は権力がない。財力と権力の集中を極度に避けていた。

現代の学校エリートは最初から解けない問題は後回し、決して手を出さない。でも江戸時代のエリートは解けない問題から解きに行く。この差が後世の目で見たとき輝いてみえるのではないかと思う。

真実の歴史は現代史である。歴史を現代の目で見て、どう生かしていくかが問題で過去の歴史だけにとらわれてはいけない。「近世大名家臣団の社会構造」は非常に面白い良い本です。図書館でも借りる人が少ないのか13年前出版の本ですが非常に綺麗な本でした。また予約も待っている人がいない状態で直ぐに借りられる本です。