書名:写楽 閉じた国の幻
著者:島田 荘司
発行所:新潮社
発行年月日:2010/6/20
ページ:684頁
定価:2500円+税
著者の作品は初めて読みました。なかなか読み応えのある面白い作品です。六本木ヒルズの回転ドアで子供が頭を挟まれて亡くなるというショッキングな事件から物語は始まる。主人公の佐藤貞三は東大卒で上場会社の役員で財産家の娘を妻に迎え妻には頭が上がらない。葛飾北斎研究家、街の塾を経営している。その一人息子が回転ドアに挟まれて亡くなってしまう。事故の原因を追及する過程で東大工学部教授で美人の片桐教授と出会う。
事故以前から写楽に興味があって江戸時代後期の浮世絵絵師としてわずか十ヶ月の活躍、それ以前の経歴もその後の経歴も不明。でも世界でも評価の高い写楽。今まで色々な人々がその謎に挑んできたが、確かなことは判らない絵師。現代編と江戸編という構成で時代小説(写楽の時代)で再現しながら謎解きに挑む。写楽とは誰だったのか?謎解き小説です。著者が20年以上暖めてきた素材を一気に書き下ろした作品。
今まで写楽別人説で葛飾北斎、十返舎一九説等いろいろな説を分かりやすく説明している。そしてその弱点などともに。そして著者がたどり着いた結論?
江戸時代は鎖国の時代だったと思われているが、以外とそうでもない。最近では高校の教科書からも鎖国が消えたとか。浮世絵には下絵を描く絵師、彫師、摺師、版元(出版社)の作業で完成する。歌麿、北斎などは絵師、そして写楽も絵師という。この謎解きには出島に進出していたオランダ人(カピタン他)が江戸に定期的に訪れていたこと、蔦屋重三郎の蔦屋が幕府の方針によって出版停止処分、版木取り上げで経営的にはドンドコだった時がキーワード。
果たして写楽とは?(写して楽しむ)東洲斎(東の端の小さな国)幻の写楽を求めて物語は進む、一応過去の文献、古文書等で確認できる出来事を詳細に並べながらの謎解きです。700頁近い本ですが、著者によれば原稿は倍以上書いたとのこと。止む得なく今のページに落ち着いたとのこと。今後続編が出てくるかも。長編ですが、一気に読める本です。
本書より(蔦屋重三郎の言葉)
打ち壊さなきゃなあ、腐っちまうのよ、屋台骨が、虫食って。それが古い家。だからな、一度は打ち壊さなきゃなんねぇんだ、自分でよ。いいぜ、どんどん描いてくんな。ちっとも遠慮はいらねぇ、江戸歌舞伎ぶっ潰すくらいの勢いでひとつ頼むぜ。そうやってな、新しいものは生まれるのよ。そうじゃなきゃ、続かねえ。