投稿者 スレッド: お神酒徳利  (参照数 289 回)

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お神酒徳利
« 投稿日:: 6月 02, 2015, 04:41:52 pm »
書名:お神酒徳利
著者:山本 一力
発行所:祥伝社
発行年月日:2008/9/10
ページ:435頁
定価:667円+税

深川を舞台とする駕籠かきの新太郎、尚平という息の合ったコンビが主人公。深川という庶民の住む街、そして軽蔑されている職業駕籠かきを題材として物語が展開していく。今でも深川界隈にいくとそこには史跡、遺跡、ただの石ころなど当時をしのぶものはいろいろ転がっている。しかしそのものを見ただけでは何も見えてこない。山本一力は読者の想像力、イマジネーションを試しているのではないかと思われるところがある。

ちょっとした史跡から当時の庶民の中に新太郎、尚平という駕籠かきが甦ってきて、その中で深川の風景が浮かんでくる。でも誰にでも同じ風景ではない。どれだけ自分のイメージを膨らませるか?は読者の自由。江戸の歴史を知らないものには知らないなりに、知っている人には知っているなりに抱くイメージ、感じるところが異なる。そんな自由な発想の許される物語が展開される。そして今の虚業を持てはやす時代に対し、実業、自分の額に汗をする人々の応援歌を展開している。したがってここに出てくる人々は自分の体を動かし、働く歓びを実感している。そんな中にある筋を通す一本の意志が見えてくる。それは江戸気質であったり、人として外してはいけない目には見えない大事なものを時代を超えて伝えてくれている。この本を読むのは2回目です。

「深川」は江戸開府当初隅田川東側は湿地帯が広がっていた。慶長年間(1596-1615)に深川八郎右衛門が開発を始めたことから、徳川家康に自分の名前を付けることを許されて「深川」と命名したと言われている。「川向う」と呼ばれた深川は、富岡八幡宮の門前町だったことから風紀の取り締まりが緩く、花柳界が発展し、深川の芸者衆(辰巳芸者・・・江戸の辰巳から(東南)、羽織芸者と呼ばれた)は通人に支持された。

辰巳で思い出す和歌は

わが庵はみやこの辰巳午ひつじ申酉戌亥子丑寅う治
随筆家の大田南畝(1749-1823)

わが庵は都の辰巳しかぞ住む世をうぢ山と人はいふなり
(喜撰法師)   

深川の駕籠かき新太郎と尚平のコンビが活躍する、市井のものがたり。江戸庶民の暮らしの中に人々の息吹が伝わってくる。尚平の恋人おゆきとの結婚を早くさせてやりたいと思いやる新太郎、新太郎のことが心配な尚平、大店の跡取り息子で勘当されている新平。新平を元の大店に戻させてやりたいと思っている尚平。男の友情とおゆきとの恋にゆれる二人の前に次々と事件が。