投稿者 スレッド: ふてえ奴  (参照数 375 回)

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ふてえ奴
« 投稿日:: 4月 21, 2015, 01:04:38 am »
書名:ふてえ奴(上)
著者:清水 一行
発行所:角川書店
発行年月日:1991/2/20
ページ:480頁
定価:544円+税

書名:ふてえ奴(下)
著者:清水 一行
発行所:角川書店
発行年月日:1991/9/20
ページ:514頁
定価:544円+税

裸一貫で郷里の金沢を出て東京へ。書生、土方、演歌師、風呂屋の釜焚き、人力車夫などの職業を転々とした陽平が、五陽製作所(石けん工場の廃液からグリセリン火薬原料を取り出す)の社長から80人の従業員を抱えるエボナイト工場を経営する。突然工場を全て売って社会主義運動に寄付、自らも共産党員となって社会主義運動にのめり込む。しかし理論ばかりに社会主義に矛盾を感じて党員からの離脱。刑務所で研究していた古新聞紙のインクを除去した再生紙作りを始めるまでのある若者の半生を描いている。

この物語のモデルは国策パルプ会長南喜一(昭和45没)と言われている。友人の尾崎士郎らしき人物なども、また人生劇場の登場人物の一人とも言われている。清水一行は企業小説、サラリーマンを扱った経済小説など多いが、この本はどちらかというと明治末代から大正昭和10年位までの当時の風景が見えてくる。そして白鬚(赤線地帯玉の井)の私娼解放運動などに携わった。ちなみに吉原は公娼。サクセスストーリーではあるが、七転び八起きの波瀾万丈の人生物語。面白くて長編にも関わらず一気に読んでしまった。苦の中にもユーモア、笑いが滲んでくる。ともすれば暗く陰湿な娼婦、関東大震災後の朝鮮人狩り、社会主義者狩り(亀戸事件)、三・一五事件で逮捕される。などを明るく描いている。でも深く読むとその中に公憤も。

歴史の目撃者としての視点も面白い。また当時の場面が簡潔な文章でハッキリと浮かんでくる。なかなかの名作だと思う。