投稿者 スレッド: 寝ぼけ署長 山本周五郎長編小説全集23巻  (参照数 362 回)

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寝ぼけ署長 山本周五郎長編小説全集23巻
« 投稿日:: 4月 15, 2015, 05:32:16 pm »
書名:寝ぼけ署長 山本周五郎長編小説全集23巻
著者:山本 周五郎
発行所:新潮社
発行年月日:2014/11/25
ページ:356頁
定価:1500円+税

時代は昭和の初期の頃、ある県庁所在地らしい地方都市の警察署長五道三省を主人公にした探偵小説。
この街の署長として赴任して5年間在任中いつもグウグウ寝てばかり居るので「寝ぼけ署長」というあだ名がつく。40歳前半でお人好しで、何も出来ない無能な署長と新聞などで酷評された。

でもこの署長の在任中は大きな事件も、犯罪発生率も格段に少なくなった。40歳前半で署長になるほどの人だから本当はエリート。でも誰もそんな目でみない。そしていつも寝ている。でも事件、犯罪は事前に起こらないようにする。いざそのときとなると一人隠れて素早い対応をする。でも誰もその中味は知らない。そしてそのことを部下の一人の語り口で第三者的に語る。そんな物語の構成で、青べか物語、季節のない町のように市中の庶民の生活を描いている。そして5年後いよいよ他県に転任が決まると住民が別れを惜しんで留任を求めるデモまで起こる。住民の中に知らず知らずに溶け込んで信頼を得ている。不思議な寝ぼけ署長の思いがけない一面が愉快だ。

 署長の名前は、五道三省(ごどうさんしょう)という変わった名で、その町の署長として転任してきた頃は、40歳か41歳の男。5年間の在任中、署内でも官舎でも、ぐうぐう寝てばかりいるので、「寝ぼけ署長」と綽名がつくほどで、その上、お人よしで無能とまで当初は新聞などで酷評された。でもこの寝ぼけ先生、5年が過ぎ、いよいよ他県へ転任がきまると、別けれを惜しんで留任を求める声が市民から湧き起こり、デモ行進にまでいたる。
 それは、署長の別な側面というか真実の側面を住民が次第に知り、5年後にはそういう行動に走らせるまでになったことが、この小説の中の幾つかの事件を通して描かれる。

「中央銀行三十万円紛失事件」や「海南氏恐喝事件」など10件の難事件を、痛快奇抜で人情味あふれる方法でつぎつぎと解決する。山本周五郎の人となりがあふれ出ている作品です。短編が集まった作品ですが山本周五郎の短編も良い。

(本書より)
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 「貧乏は哀しいものだ。(中略)こんな時まず疑われるのは貧乏人だから、然し、貧乏はかれらひとりの罪じゃない、貧乏だということで、彼らが社会に負債(おいめ)を負う理由はないんだ。寧ろ社会のほうで彼らに負債を負うべきだ。・・・・・本当に貧しく、食うにも困るような生活をしている者は、決してこんな罪を犯しはしない、彼らにはそんな暇さえありはしないんだ、(中略)犯罪は懶惰(らんだ)な環境から生れる、安逸から、狡猾から、無為徒食から、贅沢、虚栄から生れるんだ、決して貧乏から生れるもんじゃないだ、決して」

 「不正を犯しながら法の裁きをまぬがれ、富み栄えているかに見える者も、必ずどこかで罰をうけるものだ、不正や悪は、それを為すことがすでにその人間にとって劫罰だ。」

 「法律の中で最も大きな欠点の一つは悪用を拒否する原則のないことだ、法律の知識の有る者は、知識の無い者を好むままに操作する、法治国だからどうのということを聞くが、人間がこういう言を口にするのは人情を踏みにじる時にきまっている、悪用だ、然も法律は彼に味方せざるを得ない。」