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鋼鉄の叫び
« 投稿日:: 7月 08, 2014, 02:15:26 pm »
書名:鋼鉄の叫び
著者:鈴木 光司
発行所:角川書店
発行年月日:2010/10/31
ページ:511頁
定価:1800円+税

 テレビディレクターの雪島忠信は、日本人の集団で流されてしまう傾向について疑問をもっていた。そこで特攻隊に関する大型企画を温めていた。誰も特攻隊で自ら志願して死んでいったのか?命令でやむを得なく死んでいったのか?出撃後、飛行機の故障等で帰還した兵はいたが、自らの意思で任務を離れ、生き残る道を選んだという人物はいなかったのか?

戦後世代の忠信がこの企画にこだわる背景には、父が語った戦時中の体験談が影響していた。
そのヒントは不倫関係にある倉沢菜都子の手に入れた葉書だった。その葉書には九州の同人雑誌にある中学校教師が書いた小説に鹿屋基地を出撃して、自分の意志でトカラ列島に不時着して生き残った人の話が書いてあった。フィクションとは思えないリアルな話に雪島忠信はモデルがいるはずと作者の周辺をはじめ、知覧、鹿屋など取材をして回る。そしてモデルを探し出すが。これを8月15日の特集番組にする企画を提案し採用されるが。国をあげて1億玉砕に向かっていく流れのなかで、敢えてそこから離脱した人間を探す。そこにはあっとする真相が。なかなか面白い、重い重い作品です。

(著者インタビュー番組「学問ノススメ」より)
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「なぜ日本人って、みんなで集団を組んで何かはじめたら、『これはおかしい』と思ったときに、自分の意思の力で集団から離れるということをやらないのだろう。これは日本人というものを幸せにするシステムなんだろうか?(中略)群れから外れて本物の自由になったときに、それこそ自分の能力が確かめられるのが確かなんだけれど、実はハッピーなことがいっぱいあるよ。それを生きるか死ぬかという問題で描いたのがこの『鋼鉄の叫び』ですよね」(著者インタビュー番組「学問ノススメ」より)

本書より
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「諸君たちの命が皇国日本の礎となり、やがて神風が吹いて、この国難を救う。滅私奉公、悠久の大義に生きてこそ、諸君たちの命は数倍の重みを持つと、信じてほしい」
 何度も繰り返して同じ台詞を言ってきたためか、山口中佐の口調は滑らかであり、その分、軽く響いた。
 聞いていて、峰岸は、やはりわれわれは生贄なのだと実感した。科学技術の粋を集めて戦われる現代戦争の最中にあって、この国の全体は、神仏に祈り、若い命を生贄として捧げれば、負けることはないと信じている。ようするに、これから始まる出撃は、命賭けの願掛け飛行である

「人生とは、岐路に立ち、複数あるルートの中からひとつを選び取ることの連続である。楽なルートを選び、逃げてばかりいたら、幸福になるチャンスは減る。どのような人生であっても、生き方を自分で決めていると自覚することが、自由を手に入れる近道となる」