世界は異様な目で見ている 時代遅れのアナクロ政党がふんぞり返っている悪夢|日刊ゲンダイDIGITAL
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/324367「どのツラ下げて」と言うしかない。UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)が4年に1度開催する「グローバル難民フォーラム」。政府機関、国際金融機関、民間企業、人道機関、開発機関、難民、市民社会の代表が世界中から一堂に会し、それぞれの難民支援の取り組みやアプローチを共有する国際会議だ。
初回の2019年に続き、今年12月にスイスのジュネーブで2回目の会議が開かれるが、フランス、コロンビア、ヨルダン、ニジェール、ウガンダと一緒に、おこがましくも日本が「共同議長国」を務めるのだ。
G7広島サミットで岸田首相が浮かれまくったように、この政権は「グローバル」「議長国」がよほど好きなのだろうが、「恥を知れ」だ。日本に逃れてきた人を見殺しにする悪法を強行採決の末に成立させた政府が、ジュネーブに代表を派遣。議長国として難民支援を語り合う国際会議を取り仕切るとは、悪い冗談でしかない。
9日に成立した改正入管法の審議で露呈したのは、岸田政権と自民党の「人権意識の著しい欠落」だ。与党に手を貸した日本維新の会と国民民主党の2大「ゆ党」も同じ穴のムジナだ。外国人の収容・送還のルールを見直す悪法はとにかく問題山積。人権軽視の非道な入管も放置されたままだ。難民申請が認められなかったアフリカ系男性が強制送還される際の動画を、男性の代理人弁護士が5日に公開。入管職員が男性に馬乗りになって腕をねじり上げる「拷問」の様子が映っていた。
数えきれない疑問の中でも、とりわけフザケているのは法改正の背景や根拠となる「立法事実」の崩壊である。
■難民見殺しの狂った人権意識
入管庁に難民ではないと認定された外国人の不服申し立て審査を担うのが「参与員」だ。その数は111人いるのに、NPO法人名誉会長の柳瀬房子氏1人に、22年は全件の約26%に当たる1231人分、21年も約20%の1378人分が集中。驚くほど偏っていることが判明した。
柳瀬氏は21年衆院法務委員会の参考人質疑で「難民を認定したいのに、ほとんど見つけることができない」と答弁。入管庁は法改正で難民申請の回数制限が必要な根拠として、この発言を引用してきた。
22年の勤務日数は32日、従事時間は1日4時間程度だったことから、1件あたり6分ほどで審査した計算となる。こんな短時間で一人一人のケースを確認し、判断するのはムリ。出入国管理を所管する斎藤法相も「不可能」と認めた。
その上、難民認定意見を多く出す参与員は審査の配分を減らされていたことも明らかになった。つまり、この国の難民審査はハナから「門前払い」ありき。「難民が見つからない」なんて真っ赤な嘘だ。21年の日本の難民認定率はG7ワーストの0.3%というのも、さもありなんである。
立法事実が破綻した以上、改正法は廃案が筋だ。それなのに、自公与党に維国両党まで賛成に回り、山積みの疑問に答えないまま、数の力に頼って強行採決。難民申請の回数を原則2回に制限し、3回目以降は相当の理由がなければ、強制送還となってしまうのである。
難民として保護すべきだった人を日本から強制的に排除し、母国に返せば迫害が待っている。外国人が命の危険にさらされても平気の平左。それが、自公維国4党の狂った人権意識である。
不寛容な議員に「保守」を名乗る資格なし
首相長男が時代錯誤の象徴(C)日刊ゲンダイ
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1981年に日本政府が難民条約に批准して以降、21年までの申請件数9万1664人分のうち、難民として認めたのは1117人分。難民認定はしないものの、人道上の配慮を理由に在留を認めたケースも5049人分にとどまる。
この40年間に日本が受け入れた難民の数は、フランスが昨年の9日間で受け入れた数よりも少ない。フランスは22年に5万6179人、1日あたり約154人を難民と認めた。人権感覚が100年も200年も遅れた日本政府が、フランスと共に難民の一大国際会議の議長国を務めるなんて、世界に大恥をさらすだけ。今からでも返上すべきである。高千穂大教授・五野井郁夫氏(国際政治学)はこう言った。
「世界は恐らく異様な目で見るでしょう。条件を満たせば難民を受け入れるのが、難民条約の理念。あれこれ理由をつけて難民の数を抑制する日本のやり方は条約に反します。しかも日本では手続きを怠ったオーバーステイだけで、無期限収容が可能。無期限の長期収容は10年前に台湾で、今年3月には韓国で『違憲』と判断されました。日本の外国人に対する基本的人権の欠如はアジアの中でも際立っています。大きな要因は自民党議員たちの低すぎる人権意識。怪しい外国人は悪者という差別意識に凝り固まっているためです」
自民党の差別意識は、LGBTQなどの性的少数者にも注がれている。「理解増進」法案を巡り党内は紛糾。超党派でつくった原案にあった「差別は許されない」との記載に「訴訟が乱発されかねない」などと不満タラタラの保守派に配慮し、「不当な差別はあってはならない」と修正した独自の与党案を提出した。それでも保守派は「トイレや風呂で性を都合良く使い分けた犯罪につながる」などとイチャモンをつけ、「党議拘束をかけるな」と造反をにおわす始末。ここでも助け舟を出したのは「ゆ党」だ。
■純血重視と世襲横行の価値観がマッチ
衆院内閣委員会の採決直前の土壇場に自民は維国案を丸のみ。与党案になかった「ジェンダーアイデンティティーにかかわらず、全ての国民が安心して生活できるよう留意する」など、保守派の難クセに対応した文言を盛り込んで修正し、自公維国の賛成で可決された。
維新の遠藤国対委員長のもとには自民の保守派から留意事項に感謝のメールが相次いだそうだが、「LGBT法連合会」の林夏生代表は「LGBTの理解を進めると、誰かの安全を脅かすことになるのか」と語気を荒らげた。
そもそも保守派の反発で、ずっと棚上げされていた法案を自民が提出したのは、性的少数者への差別がきっかけだ。今年2月、首相秘書官だった荒井勝喜氏が「隣に住んでいるのもちょっと嫌だ」などのロコツな蔑視発言で更迭。広島G7サミットという「外圧」のため、提出準備を指示した岸田は議長のメンツを保ちたかったに過ぎない。
「マジョリティーの方だけを向き、困難に向き合う当事者の視点は皆無です。この国に同性婚の法規定がないことを『違憲状態』とする判決が相次ぎ、よっぽど明確な『立法事実』が存在するのに、救うつもりはゼロ。今の自民党は自分たちと違う存在を受け入れないという価値観に毒されています。保守の精神の本質は『寛容さ』のはず。彼らに保守を名乗る資格はありません」(五野井郁夫氏=前出)
自民党は同性愛を「罪」とする旧統一教会とは長年、蜜月。同性愛は「後天的な精神の障害、または依存症」との差別冊子を配布した神道政治連盟と強固につながっている。解散風が吹く中、選挙に弱い議員ほど「宗教右派」の支援欲しさに、反LGBTをアピールしたがるのだ。
「純血を重んじる宗教右派の家父長制的な家族観は、2世、3世議員が溢れ、世襲が当然という自民の時代遅れの価値観とマッチ。強烈に結びつき、一部の自称・保守派が政治を動かし、民主政治に必要な良識や透明性を踏みにじる異様な状態になっています。一連の悪法強行でハッキリしたのは、民主主義の仮面をかぶった自民党の封建時代さながらの醜悪な正体です」(立正大名誉教授・金子勝氏=憲法)
首相のバカ息子が秘書官として闊歩し、時代遅れのアナクロ政党がふんぞり返る。恥ずかしい政権を継続させたら、国民は世界のいい笑い者だ。