「後出しジャンケン」で「反撃能力」批判 国を滅ぼすのは自民党と大メディア
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/316127戦後77年にわたって築き上げた平和国家を担保する専守防衛をかなぐり捨て、米国と一緒に戦争ができる軍事国家へ──。敵基地攻撃能力の保有などを盛り込んだ国家安全保障戦略(NSS)など安保関連3文書が16日に閣議決定されたことで、この国の形は一変した。防衛政策の大転換を国会審議なしでやってのけたのが、内閣支持率がダダ下がりの岸田首相だ。デタラメもデタラメ。こんなやり方は絶対に許されない。
〈戦後日本の安保 転換〉(朝日新聞)
〈安保3文書 政策大転換〉(毎日新聞)
〈戦後安保を転換〉(日経新聞)
〈専守防衛 形骸化〉(東京新聞)
臨時閣議後の岸田の会見を受け、一夜明けた17日の朝刊各紙はそろって1面トップで安保3文書の改定を報道。「戦後安保の大転換」「将来に禍根」などと批判していたが、それまではどんな報道に明け暮れていたのか。
先制攻撃とニアリーイコールの敵基地攻撃能力を反撃能力と呼んでゴマカす自公与党の策謀だとか、敵国の射程圏外から攻撃可能な長射程ミサイルの配備計画だとかは盛んに報じられてきたが、コトの核心である軍事国家化についてはおざなり。岸田が防衛費について「2027年度に対GDP比2%」「23年度からの5年間で総額43兆円」などと、鈴木財務相と浜田防衛相に矢継ぎ早に指示してからは、それ一色。歳出改革や決算剰余金の活用、防衛力強化資金の創設でも不足する約1兆円の財源をめぐり、自民党内の増税派と反増税派が大モメするしらじらしい猿芝居にかまけていた。
■政権寄りメディアばかり質問
そうして与党の税制改正大綱は増税対象を法人税、たばこ税、所得税に決定。軍拡増税だ。復興特別所得税の期限を延長し、増収分を充てる汚い手口で東日本大震災からの復興予算を流用することとした。しかし、来年4月の統一地方選をにらみ、実施時期の明示は見送り。財源があいまいなまま、戦争する国へとカジを切った。先の大戦の反省から「禁じ手」とされてきた建設国債の発行もなし崩しだ。「後出しジャンケン」で「反撃能力」批判では権力監視の役割は果たせない。
政治評論家の本澤二郎氏はこう言う。
「どういうめぐり合わせなのかは知りませんが、首相会見の幹事社は日本テレビと読売新聞。言わずと知れた政権寄りのメディアです。記者クラブの慣例でまず2社が質問した後、内閣広報官から指名されたのは産経新聞。いくらなんでもデキ過ぎでしょう。防衛政策転換の理由や防衛費倍増の財源、敵基地攻撃に着手する判断基準などについての質問はありましたが、核心を突く問いはひとつもなかった。この国は憲法9条を放棄し、戦争する国になるのか? これこそ、首相本人にただすべきことですよ」
実際のところ、自民党政権応援団のメディアは、岸田に拍手喝采を送らんばかりだ。
読売も産経も17日朝刊の1面トップは安保3文書関連。読売は〈「反撃能力」保有 明記〉、産経は〈反撃能力保有 歴史的転換〉の大見出し。社説もイケイケどんどんだ。読売は〈国力を結集し防衛体制強めよ 反撃能力で抑止効果を高めたい〉と題し、日米軍事一体化の効用をこう説いていた。
〈反撃能力を行使するには、軍事拠点の把握やミサイルの探知が必要で、これらには米軍の協力が欠かせない。政府は、長射程のミサイル配備を進めるとともに、日米の連携を深めることが大切だ〉
〈15年に定めた日米防衛協力の指針(ガイドライン)には「米軍は、自衛隊を支援・補完するため、打撃力の使用を伴う作戦を実施する」と記されている。
ガイドラインに、反撃能力の保有やサイバー防衛の体制強化を明記すれば、同盟は深化しよう。日米間で検討してもらいたい〉
絶賛「安倍晋三政権でさえ実現できなかった」
安倍・菅政権をしのぐ強権(岸田首相)/(C)共同通信社
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産経はさらに露骨だ。〈安保3文書の決定 平和守る歴史的大転換だ 安定財源確保し抑止力高めよ〉の見出しで、こう書いていた。
〈平和を守る抑止力を格段に向上させる歴史的な決定を歓迎したい。政府の最大の責務は国の独立と国民の生命を守り抜くことだ。岸田首相が決断し、与党と協力して、安倍晋三政権でさえ実現できなかった防衛力の抜本的強化策を決めた点を高く評価する〉
憲政史上最長政権を誇った安倍元首相でさえ成し得なかった“偉業”を成し遂げた岸田を絶賛である。そこには外交努力による東アジアの緊張緩和を求める姿勢はない。安保3文書をめぐる報道でつくづく分かったのは、国を滅ぼすのは自民党と大メディアだということだ。
「先の大戦を知り、近現代史を学んでいる人間であれば、立っていられないほどの衝撃を覚える防衛政策の大転換が閣議決定だけで決まった。岸田政権は主権者である国民を虫ケラ程度にしか見ておらず、腑抜けな野党も強権ぶりをボーッと見守っている。メディアも野党も翼賛体制に組み込まれていると言っていい。そもそも中国との関係悪化に拍車をかけたのは、旧民主党の野田政権時代に行われた尖閣諸島国有化。火種をつくって中国を刺激し、それで軍事力を増強した中国が襲ってくると騒ぎ立てている。マッチポンプを承知の上で、東アジア危機をたきつけるメディアの見識が問われます」(本澤二郎氏=前出)
茶番劇のような自民党内の増税騒動を垂れ流し、政府と一緒になって脅威を煽り、軍備増強の既成事実化に全面協力。おかげで自民党はやりたい放題、選挙も安泰。もっとも、ないがしろにされた国民が岸田の暴走を記憶にとどめておけば、話は別である。
■「青木の法則」迫る政権崩壊
共同通信の世論調査(17、18日実施)では、敵基地攻撃能力保有をめぐって賛成50.3%、反対42.6%と評価が割れたが、防衛費増額については賛成が39.0%、反対は53.6%。防衛増税を「支持しない」との回答は64.9%に上り、「支持する」の30.0%を大きく上回った。復興財源の流用は反対74.5%、賛成19.5%だった。
内閣支持率は前回11月下旬と同じ33.1%と低迷。不支持率は0.1ポイント減の51.5%にとどまったが、毎日新聞の世論調査(17、18日実施)ではボロボロだ。支持率は25%で、政権維持の「危険水域」にどっぷり。前回11月中旬から6ポイント下落し、過去最悪を更新。不支持は7ポイント上昇し、69%に達した。自民党の政党支持率も落ち込み、4ポイント減の25%に下落。「青木の法則」によれば、政権崩壊が迫っている。「参院のドン」と呼ばれた自民党の青木幹雄元官房長官が経験則に基づいてはじき出した持論で、「内閣支持率と政党支持率の合計が50を切ると政権運営が厳しくなる」というものだ。
立正大名誉教授の金子勝氏(憲法)はこう言った。
「軍拡増税は参院選で自民党が掲げた公約に入っていない上、国会審議も経ていない。国民にしてみれば寝耳に水で、反対の声が強いのは当然でしょう。政府自民党と歩調を合わせた一部の大メディアは巧妙に危機感を高め、〈国防のためなら増税も国債発行もやむを得ない〉〈国家存亡の機であれば、戦争するのは仕方がない〉という方向へ世論を誘導する懸念があります。しかし、公約していない政策を強権で推し進める岸田政権に正当性はない。解散・総選挙で国民に信を問うのが、議会制民主主義のルールです。かつての天皇主権の下では国民は異を唱えることすらできませんでしたが、国民主権の本領を発揮し、岸田政権の暴走を止め、くさびを打ち込まなければなりません」
自民党政権の走狗と化した大メディアはこの国には害悪だ。