書名:おたふく
著者:山本 一力
発行所:日本経済新聞出版社
発行年月日:2010/3/23
ページ:481頁
定価:1800円+税
山本一力は中学3年生のときに上京、新聞配達をしながら都立工業高校に通う。卒業後はトランシーバー会社で品質管理、旅行会社で企画・添乗・広告宣伝、広告宣伝制作会社で営業、コピーライター、デザイナー、制作会社経営、商事会社でMDなどさまざまな職を経験。その後46才の時事業の失敗で2億円の借金を返すために作家になる。そんな経歴の作家です。半村良を思い出してしまう。
老中松平定信は8代吉宗の孫、田沼意次の賄賂が横行した時代の乱れを正そうと、借金苦の徳川家直参家臣を救うために札差からの借金を棒引きする。棄捐令を発布した。江戸の札差 109名に対し 総額118万両の貸金棄損が命じられた。これによってお金のながれが止まってしまって江戸の街に大不況の波が、そんななかフカヒレなどの超高級品を扱う特選堂の次男坊裕次郎が、下町で普請場の職人や火消し相手に美味しくて安い弁当屋を新たに起業していくというサクセスストーリー。
弁当の原価を計算して定価を決める場面で「儲けのない商いは、詰まるところ客に迷惑をかけて畳む羽目になる」というの義父駿喜(小料理屋おかざきの店主)の言葉を入れて1個30文にする。裕次郎を中心に義父の駿喜、女房のみのり、実兄の特選堂第五代当主太兵衛、江戸市中のてきやの元締め橋本堂の俊治朗、商いの基本、人と人のつきあい方の基本、協力してくれる一人一人がそれなりの人物が登場してくる。
ひかふれを商っている特選堂は仕入れても売れない産地を寂れさせてはいけないと仕入れを続ける。勿論使用人達に仕事が無くても給金は今まで道理で一人も首にしない。橋本堂も箱根の寄せ木細工のお盆を寄せ木細工の技術が廃ってしまうと箱根に静養する旅に買ってくる。お金の流れだけで世の中が廻っているのではなく、それぞれの人によって廻っている。そんなことを無言の内に教えてくれる。最後の方で棄捐令を出した奉行と松平定信が会う場面があるが、奉行が市中の不況を正直に伝えるとそれを黙って聞いていて、棄捐令の失敗を悟った定信の行動は速かった。何でも人のせいにするだけで、自分の責任というを考えもしない現在の施政者といかに違うか。覚悟と責任をしっかりと分かっている人々のやり取りが読んでいて気持ちが良い。経済学の本を読む、経済評論家という人の言うことより経済のことがよく分かる。また人がいて初めて経済があり、お金があるということを教えてくれる物語です。閉塞的な現代に一抹の清涼感を与えてくれる本です。
第12回作家 山本一力さん-その1-幾度もの転職の果てに辿り着いた 時代小説作家という職業
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