投稿者 スレッド: 日本人だけが知らない アメリカ「世界支配」の終わり  (参照数 314 回)

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日本人だけが知らない アメリカ「世界支配」の終わり
« 投稿日:: 5月 02, 2013, 03:17:18 pm »
書名:日本人だけが知らない アメリカ「世界支配」の終わり
著者:カレル・ヴァン・ウォルフレン
訳者:井上 実
ページ:307頁
発行所:徳間書店
発行年月日:2007/7/31
定価:1600円+税

1989年11月ベルリンの壁が崩壊した。これによって冷戦体制も崩壊した。ソ連とアメリカの覇権は終わった。資本主義陣営の勝利?とばかりこれからはアメリカが世界の警察、世界の秩序とばかりにアメリカによる世界支配が。世界の覇権国家として躍り出たアメリカという国家の歴史的役割について、二つの書を批判する形で書かれている。

筆冷戦後アメリカが世界で歴史的な役割を担うとしたフランシス・フクシマの著作「歴史の終わり」(1992)。
西洋文明と他の文明の対立を不可避と分析したサミュエル・ハンチントンの「文明の衝突」(1998)の世界観である。

冷戦後の世界の中で戦うべき相手を無理矢理でっち上げて世論を盛り上げる。9.11以後のアメリカのナショナリズムの異様なほどの高まりの中で、「テロの脅威」が喧伝され、日本の首相だった小泉純一郎は、イギリスのブレア首相などと共に、いち早くブッシュの期待に応える形で、アメリカの「アフガニスタン軍事侵攻」に支持の態度を鮮明にした。仮想敵国を想定してアメリカの軍需産業の存在すべき理由をみつけ、予算をつける。これがアメリカという国。テロというのは無数に出現する犯罪者を捕まえるのと同じで、実際出来ることではない。これをターゲットにした。そして世界もそれにうなずいた。圧倒的な軍事力をもってイラクを破壊することは出来たが、イラクを統治することは出来なかった。ドルによる世界経済支配もその綻びが出てきた。アメリカの裏庭ともいうべき中南米で反米的な大統領が出てきている。

 グローバリズムは、アメリカという幻想国家が唱える、「市場原理至上主義」ともいうべきお題目である。その無秩序な市場原理主義経済(グローバリゼーション)がもたらすものは、世界的な格差拡大と分配の不公平、そして貧困の増大である。グローバリズムは間違っている。

かつての日本、台湾、韓国の経済成長はコントロールされた市場経済、金融は制限されていた。国内で製造する製品には保護が掛かっていた。ところが市場原理主義経済による市場開放はフィリッピンをはじめIMFによる南米施策やアジア危機の対処はどんな結果をもたらしたか?

貧困国に公平、市場開放、金融自由化を行えば(これは富裕国が強制する)当然国内産業は壊滅的打撃を与えられる。強者が市場を荒らして何もなくなるまで絞りつくす。そして一瞬の内に金融は手を引く。マウスをクリックするだけ。中国経済は市場開放と言いながら共産主義を捨てたわけではない。また外国資金は原則受け付けない。資本導入するのは技術取得が出来る場合。そして中国のルールでグローバリゼーションの泥沼から距離を置いている。そして独自経済成長の道を歩んでいる。簡単にアメリカべったりとはいかない。強い者がより強く、弱い者はより弱くなってしまうのがアメリカの意図(アメリカ人にとっても大部分の人には大迷惑な話)がグローバリゼーションを唱える意味。

著者はオランダの人欧州連合を記述した項ではEUへの期待と愚痴をすこし感情的かなと思うくらい書いている。EUへの期待が大きいのが分かる。国内政治がうまくいかないと外敵捜しに走るのはどこ政府でも同じ、特にアメリカは常に敵を求め、勝手に作ってきた。そしてアメリカ自身がコントロール出来なくなっているのは軍需産業、金融産業だという。人類が創造したものが人類に歯向かい、我々を害するものになりつつあるものの一つとして軍需産業、もう一つとして核兵器。いまなら原発も。

この本は小泉内閣、安倍内閣当時出版された。グローバリゼーションの嵐が吹きまくっていた頃、その後日本はどうなったか?この本とともに振り返ってみるとよく見えてくる。
旧態依然とした「日米関係を大切にしておけば、日本の政治経済の持続的発展は可能だ」という発想を大きく転換しなければいけないときになっている。アメリカの不在が露わにしつつある政治・経済の新しい現実を、綿密な取材と緻密な分析でわかりやすくまとめられている。

本書より
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第1章 アメリカの覇権は終わった
第2章 テロリズムは脅威ではない
第3章 グローバリゼーションは崩壊した
第4章 貧困撲滅という虚構
第5章 地殻変動を起こす地球経済
第6章 新しい現実の中での欧州連合
第7章 中国は信頼できるか?
第8章 虚構にとって代わる真実 

テレビは重要は情報を殆ど与えてくれない。情報源として、テレビは役に立たない。しかしその影響はきわめて大きい。政治的観点からすれば、テレビは民主主義を脅かす存在である。この事実が一般に充分理解されていない。

アメリカの政治家がテレビを通じて議会もしくは大統領選挙キャンペーンを行うには数億ドルという資金が必要であるために、彼らはその資金源を大企業に依存することになる。そうなれば彼らに政治的な公正さを期待することは不可能になる。テレビは民主主義の性質を変えてしまった。

テレビが伝えるのはサウンドバイト(数秒で伝える政治家の発言や所見のこと)やスローガンであって、それらが何かの主張を視聴者に伝えるわけでない。サウンドバイトは視聴者の心理に影響を与えることで、正しい決定を妨げる効果がある。なぜならサウンドバイトが働きかけるのは人間の感情に対してであって、論理的な政治推進力をもつものではないからである。