投稿者 スレッド: 『自然・人間 危機と共存の風景』  (参照数 1717 回)

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『自然・人間 危機と共存の風景』
« 投稿日:: 11月 14, 2012, 12:07:26 pm »
書名:『自然・人間 危機と共存の風景』
著者:星野芳郎
発行所:講談社
価格:780円

---本書より-----
 「私たちが子供の頃は、日本の都市はまだ小さかった。テレビもエアコンもなか
った。だから私たちの遊び相手は、林や草原であり、海や川であり、山であり、昆
虫や魚であった。自然と人の共存は、あたりまえのように、日常的につくられてい
たのだ」
 「80年代の末から、地球環境危機が、国際的にしきりに問題となってきた。一方
ではIT革命が新しい社会をひらくと言われながらも、自然と人の共存もまた、さ
らに声を大きくして語られるようになった」
 「しかし、私たちの身の回りの自然から話を始めず、日本の独特の自然も飛び越
して、いきなり地球環境を語るのはどうかと私は思わざるを得なかった。1970年前
後の公害問題をつうじて、人々は自然と人の共存に立ち入って考えるようになった
が、なおかつ、人にとって自然とは何かという根本的な問題は、必ずしも十分に論
じられているとは言えない。私はまず、私たちの素朴な体験をベースとして、自然
と人の関係を考えてみたい」

人にやさしい自然は「二次自然」
 著者は、自然を一次自然、二次自然、三次自然に分類している。
一次自然は、人の手がまったく加えられていない自然で、原生林などである。
二次自然は、道が設けられた森のように、人の手が多少とも加えられたものである。
三次自然は、人がさらに手をくわえたもので、田や畑、牧場、庭園などだ。

一次自然について
「原生林の中や海の上に一人放っておかれたら、人は自然の重圧に耐えかねて、恐
怖のあまり気も狂うであろう」「一次自然は恐ろしいのだ」
二次自然について
「道があって、はじめて森は人にやすらぎを与える。船や港があって、広々とした
海は、人にやさしい顔を向ける」「人にやさしい自然とは、この二次自然である」
三次自然について
 「生け花も庭園も人のコントロールのもとにある三次自然であって、二次自然に
見る旺盛な生命力はない。自然と人の共存にあっては、生命力あふれる自然と人の
共存こそが、最も大切ではあるまいか」

 「自然のなかで最も注目すべきは、人の手の入った山や川や森や海という二次自
然のやさしさと生命力である。都会人の多くはその二次自然を飛ばして、一方では、
自然といえば人の手が全く加えられていない山や森のような一次自然のことと思い、
自然に手を触れることはすべて悪という極論を生み、他方では虫もトカゲもあらゆ
る雑草も嫌って、京都の寺の木立のような三次自然こそ最も望ましい自然と考えや
すい」

相当な困難があっても二次自然を守るべき

◆生命力豊かな「二次自然」を守ろう
 「ひと言でいえば、苔寺のように人によってコントロールされた整然たる木立の
庭園こそ、人々の理想であり、そこには下生えも雑草も見えなければ、あまりに背
の高い樹木もなく、虫一匹もいないという状態こそ、人に望ましい自然環境と思う
都会人は多いと、私は推測する」
 
 「日本の行政担当者や知識人が、私を含めて、ありのままの自然に対する豊かな
感性や教養や理解力を身につけることが必要である。それによって、はじめて、私
たちは、世界にまれな日本列島の自然環境と美しさを守り、地球環境の保全に貢献
することが出来る」
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 すぐに海外の例を持ってきて、地に足の話にならない環境問題、「自然と人との
共存」や「自然の保全」のあり方などを考察するうえで、星野芳郎の視点は今の日
本に必要なものだと思います。昨日BS放送で昭和38年の出来事等を紹介していた
ときに星野芳郎がちょっと出演していた。非常に懐かしく思ってみていた。公害問
題の時代、反対派も賛成派もベースになる資料は星野芳郎という時代があった。原
子力反対、賛成も。解釈の仕方というか自分の思いこんだ論理、無理矢理合わせる
ような議論がまかり通っていた。武谷三男などちょっと懐かしい。

今は「持続可能な地球」「環境に優しい」「分別すればゴミは資源」等、言葉だけ
が勝手に巡って、サンマ、鰯などの魚群のように一方向に流される時代。魚群探知
機で検出されて、網でひとからげになってはじめて気が付くのかも知れない。そう
ならないためには本書など良いテキストではないかと思う。残念ながら絶版になっ
ているので図書館で借りるか、ブックオフしかなさそうです。