投稿者 スレッド: 深重の橋  (参照数 659 回)

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深重の橋
« 投稿日:: 4月 06, 2013, 12:09:01 am »
書名:深重の橋(上)
著者:澤田 ふじ子
発行所:中央公論新社
発行年月日:2010/2/25
ページ:376頁
定価:1700円+ 税

書名:深重の橋(下)
著者:澤田 ふじ子
発行所:中央公論新社
発行年月日:2010/2/25
ページ:425頁
定価:1800円+ 税

室町時代応仁・文明の乱の頃、実在していた宇野玄周をモデルに著者が創作した小説。十五歳の少年“牛”が3人の女とともに人買い商人の手で湯屋(風呂屋)へと売り飛ばされた。狡猾な主が課す苛酷な労働に耐え、牛は逞しい男へと成長する。一緒に売られてきた女と心を寄せ合う湯屋を逃げ出すのだが・・・
京都を焼き尽くした応仁・文明の乱、戦火ばかりだけではなく、疫病・飢饉の頻発、土一揆で民は塗炭の苦しみの襲われた。将軍は義政。政治民は眼中になく、同朋衆、作庭、能、お茶、銀閣寺の造営などに夢中になった人。五山の送り火(大文字)をはじめた人とも言われている。後世義政の評価は良くない。でも作者は日本の文化の萌芽は義政が築いたと評価している。

底辺から這い上がった牛という人物を通して応仁・文明の乱、室町時代を生きた庶民を描いている。河原者と呼ばれた非人、動物の皮を加工して武具を作る商人などが日本の文化を創り出して来た。中世を事細かに調べて詳しい説明をしながら物語が進む(うっとうしいくらい)。連載小説でやむを得ないのかもしれないけれど、何度も同じ説明が出てくる。ちょっとくどい。整理されていない。

そんな場面がいくつか出てくる。文章を1/3位削ってしまうともっとよく分かり、作者の意図が見えてくるのではないかと思う。そして一番の課題は物語を創造するという能力が劣っている感じがする。題材を見つけることには良い着眼点があるが、物語を作る、語り部としての才はちょっと言う感じがする。これはどの作品をとってもそんな感じ。

針小棒大に歴史の残片を調査、推測することは非常に熱心ですが、歴史的に見て分からないことも当然あるし、調べきれないところは作者の推測で補っているが、断定的なところがちょっと気に掛かる。この小説はそのまま日本芸能史、生活史という視点で見ると一つの資料を与えてくれる。

本書より
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「艱難汝(かんなんなんじ)を玉にす、匹夫も志を奪うべからず、篳路襤褸(ひつろらんる)ともいうぞよ」
☆作者の創作☆
身は破れ車、運命悪ければ人に売られこそする。先の見えない十五の涙
☆「閑吟集」☆
人買ひ舟は沖を漕ぐ とても売らるる身を ただ静かに漕げよ 船頭殿
☆謡曲「葵上」☆
世の中の情けは人のためならず。われ人のため辛ければ。われ人のため辛ければ必ず身にも報うなり
☆落首☆作者の創作
京ニ多キ禅坊主、唐ニ学ビテ励メドモ、思案イタシテ着ク先ハ、ワガ身ノ名利出世ナリ、権門富家ニ近ヅキテ、賢シラゲナルソノ面デ、歌ヲ詠メドモ美辞麗句、飢エテ死ニタル人ノタメ、経文ヒトツ読ミモセズ、道ヲ説キタルコトモナク、高(高値)キ衣ニ包マレテ、三昧聖ノ阿弥衣ヲバ、破レ臭キト笑フナリ、執沙汰者ニイハセレバ、死者ヲ弔フ者ナクバ、此ノ世ニ迷フ者多ク、弥陀ノ嘆キモ深カラン。イヅレハ死ヌル其輩、冥府ノ沙汰ハイカニヲヤ