書名:早刷り岩次郎
著者:山本 一力
発行所:朝日新聞社
発行年月日:2008/7/30
ページ:412頁
定価:1700 円+ 税
戦国時代の終わり頃からグーテンベルグの印刷技術は日本でも知っていたが、活
字をひろって印刷する技術は普及しなかった。明治になってようやく普及したと
のこと。何故でしょう。この本は瓦版を始めた岩次郎という人が主人公。安政年
間のこと。早刷りの記事を書くのは耳鼻達(記者)、記事には絵描きが挿絵(絵
描き、カメラマン)を添えた。原稿と絵は「枠切り」に回された。(編集長)そ
して彫刻師、刷り師に。このサイクルを1日で行っていかに早く早刷りを発行する
かが勝負。それと記事の内容、幕府に迎合しない、同業他社ともライバル関係を
維持する。
現在のマスコミの原点が各所に出て来る。この時代の物語ですが、現在のマスコ
ミも習って置くべきエッセンスが凝縮されているように感じる。瓦版というと人
の弱みを握って脅す、金を、情報を巻き上げる。人非人と思われていた時代。確
りとした方針、思想と持った岩次郎はシステムを確立している。現在にも十分通
用するマスコミの基本が示されている。この小説に比べて恥ずかしいようなマス
コミ関係者がいっぱい居るのではないでしょうか?
日本語は漢字、平仮名、カタカナと種類が多い。したがって活字を準備するには
莫大な数になる。活字を拾って印刷するには時間が掛かりすぎる。また文字の大
きさもいろいろ取りそろえないといけない。それに比べて版木に彫刻する方が簡
単に、早くできるという理由で、版木印刷が江戸時代の終わりまで続いた。早刷
りにはあった印刷方法だったのでしょうね。