書名:楽天旅日記 花も刀も 山本周五郎長編小説全集14巻
著者:山本 周五郎
発行所:新潮社
発行年月日:2014/4/25
ページ:541頁
定価:1700 円+税
2つの作品が掲載されている。「楽天旅日記」は自分の生い立ちは何も知らずに、ある日国許から家臣によって江戸への旅に連れ出された順二郎、家臣の陰謀によって山道の崖谷深いところから馬ごと転落、落とした家臣は間違いなく命はなくなったと引き上げる。
順二郎は大吉田藩七十万石の正嫡であったが、四歳の時側室の一派の陰謀によって廃嫡され国許で幽閉生活。何も教えられず赤子同然の二十四歳。世継ぎとされていた側室の子が突然死することで隠密裡に江戸に迎えられる事になるが。家臣どものお家騒動に巻き込まれてしまう。炭焼きの娘に助けられた順二郎は人を疑うことを知らず、次々会う人達を通じて段々といろいろなことを知ってくる。世間知らずの若殿を中心に巻き起こす物語。娯楽小説です。
「住んで食って着るということが、こんなに仮借のない激しいものだとは思わなかった」
もう一つは「花も刀も」は講談、浪曲でもおなじみの平手幹太郎(造酒)の若い時代を描いた作品。真面目に剣ひと筋に打ち込む男、剣道も上達して道場でも1,2を争うくらい強くなるが、何故か師範は認めてくれない。そして破門。酒も飲まず日々精進に励むが何をやっても不運がつきまとう。
命を助けられたお豊という女の面倒をみないと意気込んでいるとその女のことで入らぬ誤解を受け、折角決まっていた伊達藩下屋敷の剣道場の師範役をやめさせられてしまう。千葉周作に見込まれて弟子入りするが北辰一刀流の流儀にはない技を工夫することをとがめられてしまう。
「技によって勝つ者は、技によって必ず負ける、技はくふうすればあみだせるし、くふうは一人だけのものではない、平手のあみだす技が神妙だとすれば、平手のあとに、もっと神妙な技をくふうする者が出るだろう、それは道の精神に反するし、まったくの邪道だ」
この時代の剣道は戦さとは疎遠になっているので、勝つだけでは駄目、生まれた時代が悪いのか?平手が悪いのか?何をやっても旨くいかない平手幹太郎(造酒)の青春時代を描いている
どちらも気軽に楽しく読める本です。