投稿者 スレッド: 元福島第一吉田所長の調書を読んで  (参照数 181 回)

admin

  • Administrator
  • Hero Member
  • *****
  • 投稿: 58883
    • プロフィールを見る
元福島第一吉田所長の調書を読んで
« 投稿日:: 9月 17, 2014, 09:33:59 pm »
元福島第一吉田所長の調書を読んで
9/11に公開された「政府事故調査委員会ヒアリング記録」の吉田所長の調書を読んだ。7種(全498ページ)の資料です。その他18人のヒアリング記録も合わせて公開されています。

政府事故調査委員会ヒアリング記録 - 内閣官房
http://www.cas.go.jp/jp/genpatsujiko/hearing_koukai/hearing_list.html

東日本大震災が発生した3/11から15までの福島第一原発事故の対応について、時系列的に詳細にヒヤリングを行った記録が肉声で語られている。一部吉田所長の部下の方などの名前は塗りつぶしてあるが、内容については全てオープンになっている。ただ専門用語が略号で書かれているところもあって、検証委員会の報告書と合わせて読むと理解しやすい。

地震発生と同時に東北電力から供給を受けていた電力(交流電源)が喪失してしまった。(鉄塔が崩壊して電力線が断線)発電をしていた1,2,3号機は緊急停止「止める」、停止はしたけれど「バルブ等を閉じる」については「全閉」「半閉」の状態のものもあったようだ。その後津波が到達した。そのとき自家発電機(ジーゼルエンジン)、バッテリー等が水没、全電力停止状態となる。
この時点で原子炉内の温度が上昇しているが、中央操作卓のモニターなどは全く表示されていない状態(電力断による)、また原子炉、配管等のセンサーも動いているかいないか判らない状態。この時点で「冷やす」ということを第一優先として電気系統が駄目でも動く冷却装置で冷やそうとすぐが、難航そして最終的にとった方法が、FP系(消防用水系統)と呼ばれる地震に対する強度としては一番弱い系統を使って水を入れる方法しか採れなかった。(この系統は柏崎原発が地震で火災が発生した事故後、消防の為に消火柱(消火水系統)、消防車の常備された)

結果的には消防車による水の注入。これが簡単にいかない。原子炉は2000℃以上の核燃料が臨界状態を停止したばかりの状態で、原子炉の圧力が高い状態、圧力を高くしていないと、水は瞬間的に無くなってしまう。ところがここへ消防車で水を入れようとすると圧力を下げる(減圧)ことをしないといけない。でも減圧するための弁は電気系統が止まっているので弁をコントロールすることが出来ない。電気系統が駄目なら、空気圧を制御(これはコンプレサ等)でも適当なコンプレサが無い。性能不足、仕方がないので、手動で開閉を行うことにするが、放射線量が高くなって人が近づけなくなってしまった。これが11日の夜から12日に掛けてのこと。

この時、福島第一としては必要な資材などを沢山、本社経由で注文している。電源車、バッテリー、消防車、防護用具等々。そして11日震災直後から12日位はまでは原子炉の被害の状態は全く判らない。現場は混乱の極み。しかしトラブルの時、「たまたまその場にいた人達はそれはそれで一番その作業をする上での適任者達」とならざる運命にある。例え適材適所、最優秀のスーパーマンを望んでもないものねだりとなるだけ。そんなメンバーがその場その場で最適な解を求めて行動する。組織なんか出来ていないから、当然そうなった。そんな状態が続いていたときに次々と襲いかかる危機的状況、ベントを行うという選択は格納容器から放射能を放出して爆発を防ぐ手立て、本来なら地元などに周知徹底して避難を完了して行わないといけない。

またこれも電源停止の状態で、制御が出来ず、手動でやるしかなかった。そのうち爆発が起こる。(水素爆発といわれている)爆発の後に原子炉の圧力が下がったのでベントで下がったのか、爆発で下がったのか判らない。したがって大騒ぎしたベントも成功したか、しなかったかが良く判らない。14日から15日に掛けての危機的状況、2号機の制御不能、放射線量が極端に高くなったとき、水を注入する手段に四苦八苦していた。これが注入できなかったら、避難するしかなかった。(ここで全員避難等で大問題に発展する)、吉田所長をはじめ最低必要な人員は残しての避難(これは常識)船が沈むときのキャプテンとおなじ。それを官邸はそうは取らなかった誤解か?

2号機に水が注水できず、原子炉の爆発までいってしまうと、その後1,3号機も制御できなくなってしまって(放射線量が高くなりすぎるから)次々とチャイナシンドロームに陥ってしまう危機が15日。それをかろうじて回避出来たのが実は消防車による給水。(本当に偶然の幸運か?)
そんな息が詰まるような流れが現場の雰囲気として伝わってくる。外部からの支援は全くなかったと行っている。機材も小名浜の倉庫には入るが、福島第一から人を出して取りに行かないといけない。資材も小名浜の倉庫に積んであるだけで、必要なものが判る人が見ないと選別も出来ない。これは救援物資と同じで必要なもの、不要なものの山になってしまった。

その中で平成20年頃貞観地震の件について検討した話などが出てくるが、素人として考えたとき何故?5.7mの津波、6.1mの津波などを検討せずに、黙って原子力発電所は30m以上に作るという指針が出なかったのだろうか?海水を揚げる費用対効果?夜中の余剰電力を使って海水を上に揚げる方法等でできるのでは。少なくとも津波は被害の中から除ける。最近は何でも仕様、指針にあった設計をシミュレーションなど使ってやるが、これなど策士策に溺れるでは。昔は設計マージンを大きく取ることで作っていた。今はマージン最小。この考え方は合理的なようでも実際の事象は想定外もある。線形で物事が進のであればマージン最小でも良いが、実は地震、津波、自然現象は線形ではなく非線形の事象もあるということを忘れているのではないか?

この調書は危機管理、原子力発電、想定外などいろいろ考えるヒントが一杯詰まっている。少なくとも今、電力会社で原子力発電に携わっている人、原発を再稼働してを推進している人などは是非とも読んで欲しい調書だと思う。のど元過ぎればということで今は福島のことは全く出てこなくなったが、消火水用系統が原子炉に繋がっていなかったら、今の状態よりずっと大きな被害になっていた。首の皮一つで何か、今の状態までになった。あまりにも楽観的に考えすぎているのではないか?

朝日新聞の誤報であれ、なんであれこの調書が公開されたことは良いことだと思う。これを読んでも原発の稼働を叫びますか?危機に陥ったとき人間には制御するのが非常に難しい原発、でもその危機にさらされるのも人間、今回は何とかなったもしれないけれど、複数台の原発を運転していて同時に故障、障害が発生することもある。それも思わぬところから。電力会社が電源が供給できなかった。これって漫画みたい話ですが、誰も二重化、三重化、バックアップ、代替え機器など予備系など考えていた。でも所詮は浅知恵、全電源喪失など誰も考えられなかった。後からは何とでも言えるけれど。