書名:義烈千秋 天狗党西へ
著者:伊東 潤
発行所:新潮社
発行年月日:2010/1/25
ページ:418頁
定価:2200円+税
水戸藩の尊王攘夷派天狗党を描いた長編歴史小説です。水戸藩藩主徳川斉昭の側用人であった藤田東湖の四男として生まれた藤田小四郎が若き首領として、軍師山国兵部、強力の怪僧全海、剣鬼田中愿蔵など同志として尊皇攘夷を旗印した天狗党事件を題材にしている。開国によって水戸藩の経済は壊滅的な状態、困窮にあえぐ北関東の農民を救うべく、旗を挙げた。筑波山に集った義士、夷敵をこのままにすれば日本は清国と同じになってしまう。朝廷をもり立てて尊皇攘夷こそ、亡国から救う道と信じ込んだ人々が同志として天狗党に集まってくる。
同志として集まった経緯から当初はリーダーシップの取り方が曖昧で軍資金集めには商人からの強奪、無理な強要、強引な資金集め、後に非難されることを一杯やっている。そんな仲間を追い出してからは党の規律を厳しくして、水戸から40数日かけて京都の徳川慶喜に会うために、追悼軍と血戦を重ねつつ向かう。敦賀まで来たところで、徳川慶喜からはつれない言葉!幕末最大の悲劇が起こる。天狗党の事件については諸説が一杯あって、山田風太郎『魔群の通過』、吉村昭『天狗争乱』など。
幕府の命令で追討軍となった高崎藩と天狗党が激突した下仁田戦争については最近の知見などを含めて描いている。
義士という場面もあるが、マイナス面も描いている。武士の商法、方針が右往左往する、お金には杜撰、仲間の和を重んじたことから、事態の推移に柔軟に対応できない硬直した態勢、日本型の組織なども余すところなく描いている。亡国から農民を救うが結果的に天狗党の同志を生かす、生き残るために追討軍と戦いながら230里を駆け抜けていった。尊皇攘夷に凝り固まることで、倒幕に向かうという矛盾を抱えながら、時代を生きた藤田小四郎たちを描いている。一応、明治政府になって顕彰などされているが、本心は倒幕ではなかったのでは?彼らもやっぱり徳川幕府というシステムの中で生きざるを得なかった人々の壮絶な最期を徳川幕府ともに亡びて言った人たちではないか?迫力のある小説です。行く道になんの光明も見えない、暗い暗い中、己の信じる義に生きた。そんな感じがします。