時計と磁石
三びきの猿 (薄田 泣菫(すすきだ きゅうきん))
向かう小山を猿がゆく。
さきのお猿が物知らず
あとのお猿も物知らず、
なかのお猿が賢くて
山の畑に実を蒔いた
花が開いて実が生れば
二つの猿は帰り来て
一つ残さずとりつくり、
種子をばまいた伴の名は
忘れてついぞ思い出ぬ。
時計と磁石 薄田 泣菫(すすきだ きゅうきん)
磁石が時計に言う事に、
「お前はいつもいそいそと
いそがしそうに働いて
ついぞ休まうひまもない。
なんぼ苦しい事じゃやら」
時計が磁石に言う事に。
「お前はいつも真面目に
ひがな一日じっとして
北と南を指すばかり、
なんぼ退屈な事じゃやら」
お山育ちのほほじろが
山がつらいと里に来て、
里で捕られて、ほほじろが
山が恋しと鳴きまする