投稿者 スレッド: 動的平衡  (参照数 290 回)

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動的平衡
« 投稿日:: 5月 10, 2013, 06:45:57 pm »
書名:動的平衡
副題:生命はなぜそこに宿るのか
著者:福岡 伸一
発行所:木楽舎
発行年月日:2009/2/25
ページ:254頁
定価:1524円+税

書名:動的平衡2
副題:生命は自由になれるのか
著者:福岡 伸一
発行所:木楽舎
発行年月日:2011/12/7
ページ:254頁
定価:1524円+税

福岡伸一氏は面白い。最先端の研究成果をさりげなく、複雑な難しい生命の仕組みをわかりやすく説明しながら、品のある文章、教養がある言い方で淡々と進めていく。年を取ってくると1年が早い。その仕組みは?、肌が衰えるのを防止するためにコラーゲン添付食品を食べる愚。人間は脂肪として蓄積しておけるものと、いつも供給を続けていかないといけないタンパク質を日々食べて生きている。

細胞は毎日のように、生成され、壊れ1日たりとも同じ状態で生きているのではない。常に蕩々と流れ、元の状態ではない。日々新たに生き、死んでいる。それも絶妙なバランスの上に何事もなく行っている。そんな生物の一つが人間であり、この自然の不思議をわかりやすく説明してくれる。動的平衡と名付けているのは、いままでの科学が部分を詳細に分析する。部品の一つ一つを研究する。工学機械のようにその部品が何かの役割を担っていて、その部品を取ってしまうとある機能が動かなくなってしまう。

それを調べてその部品の役割を推定するといった研究でいろいろなことが分かってきたが、研究を進めていく内に部品という単一機能だけで説明できない現象がいろいろと出てきた。生きているということは動的平衡を保っている(細胞が作られ、壊される流れ)こと。これが平衡が保てなくなると死が待っている。一つの部品を取り去っても他のものが代替えとして働く、生命の不思議。これを機械と同じ部品の集合という考えでは解けない謎がいっぱい残ってしまう。

ES細胞、ips細胞を作る研究も進んできたが、人工臓器を作って取り替えることが出来るまでにはまだまだ、いや取り替えることが出来ても、寿命が短くなったり、他の細胞への影響などがどう出てくるか?まだまだ分からない状態。生命科学の先端を覗きながら、生命の奥深いところをじっくりと考えている。奥の深い内容の本です。人間が生きる、動物が生きる。植物が生きるとはどんなことか?ゆっくり考えさせてくれる本です。

年を取ると1年が速く感じるのは細胞の劣化などで、人間の体内時計が遅くなってくるから、体内時計では8ヶ月位に感じているが、本当の物理時間は1年になっていたということでは。人の記憶はどこに保存されているのか?記憶の仕組み、保存場所は?1年前の細胞は体のどこにも残っていない。日々新たになっている。でも10年前の事も、昨日のことも覚えている。これって不思議ですね。どうなっているのか?

人間はタンパク質を食べても一度消化して分解して、もう一度タンパク質を作り直す。したがってコラーゲン添付食品を食べてもコラーゲンになるわけではない。こんな簡単な原理を忘れて健康食品に踊らせるのもどうかと思う。人間のDNAとチンパンジーのDNAは98%は同じでも人間とチンパンジーは違う。その違いがどうして出るのか?著者はDNAの膨大な情報をオン、オフするスイッチをコントロールする時間の違いと推定している。DNAは音楽の楽譜のようなもの、その楽譜を演奏するときに指揮者、演奏者によって微妙に違った音楽になるように、DNAできっちりと固定されているのではなく自由、余裕度、遊びが残されている。生命は自由であれと。

本書より
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ソメイヨシノは一代雑種である。コマツオトメとオオシマヒガンを交配したもの。江戸時代後期に天然の交配が発見されたか、あるいは人為的に作り出された。その後明治期に入り、江戸の染井村(豊島区)の造園業者によって育成され全国に広まった。

生命現象は本当は「メカニズム」と呼べるような因果関係に基づく機械仕掛けで成り立っていない。絶え間なく動きながらできだけある一定の状態=平衡を維持しようとしている。そういう状態にあるものに対して干渉を加えれば、いっとき、確かに平衡状態は移動して別の様相を示す。しかし間もなく揺り戻しが起こる。

どんなに科学技術が進歩しても、人間は森羅万象のすべて理解することはできない。常に「わからないこと」を抱えて生きていかなければならない。中略 部分の効率や幸福を求めると、逆にみんなの効率や幸福にはつながらない。


一組のコマツオトメとオオシマヒガンを交配したのが日本中のソメイヨシノの原種。一代雑種というのはレオポンと同じで生殖能力がない。したがって一代限りの種。ではソメイヨシノはどうして全国に広まったか。挿し木でどんどん増やしたそうです。コマツオトメとオオシマヒガンを交配をさせても成功する確率は天文学的な確率になるそうです。「有り難い」事です。ではソメイヨシノは絶滅したらどうなるの?