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霖雨
« 投稿日:: 9月 06, 2017, 08:20:54 pm »
書名:霖雨
著者:葉室 麟
発行所:PHP研究所
発行年月日:2014/11/25
ページ:397頁
定価:740 円+税

豊後日田(大分県)は天領で九州探題とも位置づけられるところです。交通の
要路であり、物資、情報も集積する場所、そんなところに私塾・咸宜園(かん
ぎえん)を主宰する広瀬淡窓(たんそう)、家業を継いだ弟・久兵衛。代官所
に赴任した塩谷郡代、やり手で領内の治水、干拓に近江屋久兵衛に強引な協力
をさせて次々と業績を挙げていく。
しかし領民からすると怨嗟の的。そして次に狙ってきたのは諸国に有名な私塾
・咸宜園の運営への参画。画期的な教育方針を打ち出す淡窓に霖雨(何日も降
りつづく雨。ながあめ。)のように咸宜園が思うように運営できなくなってく
る。大坂では大塩平八郎の乱が起きるなど、時代の転換期、郡代の権力の横暴
に耐え、それでも自分の生き方を貫こうとする広瀬兄弟の物語。

物語の始まりは広瀬淡窓の元へ安芸からやってきた臼井佳一郎と千世の姉弟が
入門を願い出てきたことから始まる。郡代の横暴ともにこの2人と共に物語が
進む。幕末の儒学者広瀬淡窓の生き様を描く。「咸宜園」は文化2年(180
5)日田の地で、淡窓により創設され、明治30年まで存続した。身分を問わず
入門が許され、誰でも成績で上のクラスに上がれる、全寮制。高野長英、大村
益次郎など幕末・明治に活躍した多くの人がいる。

広瀬勝貞(大分県知事)は広瀬兄弟の子孫、この本の最後に著者と広瀬勝貞氏
の対談も収録されいる。

本書より
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しみじみと心中を述べる淡窓に目を向け、
久兵衛はおもむろに口を開いた。
「お教え、肝に銘じます」
「そなたを諭しておるのではない。
 自らに言い聞かせているのだ。
 たとえ霖雨の中にあろうとも進むべき道を
 誤ってはなるまいとな」
「われらは、これより後も雨中を進まねば
 ならぬのでございましょうか」
「それが慈雨となる道であろうが、さて・・・」