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海軍
« 投稿日:: 6月 16, 2016, 10:02:28 pm »
書名:海軍
著者:岩田 豊雄(獅子文六)
発行所:中央公論社
発行年月日:2001/8/25
ページ:373頁
定価:724円+税

作者岩田豊雄は獅子文六の本名、本名で書いた昭和17年の新聞(朝日新聞)連
載小説。真珠湾攻撃に参加した特殊潜航艇による「特別攻撃隊」をテーマに

後で真実は明らかにされるが、真珠湾攻撃の時、空母機動部隊の艦載機(零戦
)による空襲以前に,特殊潜航艇が,米軍哨戒機に発見され,米海軍駆逐艦に
攻撃されている。撃沈確実と思われる。甲標的は1-2隻が真珠湾内に突入する
のに成功、魚雷を発射したようだが,戦果はなかった。

しかし、当時の日本では,開戦劈頭の大戦果として,特殊潜航艇も米艦船撃沈
を成し遂げたように戦果が公表された。決死の覚悟で出撃した甲標的の搭乗員
10名は賞賛された。しかし,酒巻和男少尉は捕虜となったため,1名少ない9名
のみが「軍神」としてたたえられた。(九軍神)

この事実を知らなかった著者が横山正治中尉(後2階級昇進して中佐)をモデ
ルに描いた作品です。これが後の公職追放の原因にもなっている。

この作品は谷真人(モデル横山正治中尉)の誕生から小学校、中学校、海軍兵
学校を経て「特別攻撃隊」に参加し戦死するまでを描いている。文才が豊かな
著者ですので九軍神にスポットをあてずに海軍、兵学校、の仕組み、規律、そ
の生徒・教師達を描くことによって戦争を昂揚させるところが一杯。

また、作者自身も陶酔しているところがあるので、「お国のために命を捧げる
」ことが当たり前、そんな雰囲気が戦争に向かうにつれて出てくる。したがっ
て谷真人も特殊潜航艇による「特別攻撃隊」に志願して参加している。公権力
が強制して監視社会を作るのではなく、仲間達がみんなそんな雰囲気にして行
く過程がよく分かる。自衛隊の戦争参加?などを考えるとき非常に参考になる
本だと思う。

軍人、軍人魂を徹底的に美化した点においては好戦的愛国的な作品。戦争をあ
おったとは言えないかもしれないが、昭和17年に発表されたこの作品に感化さ
れ、いたずらに若い命を散らした青年も少なくはなかったはず。谷真人は自分
で望んで軍人になり、それなりのエリート教育を受け、志願して魚雷2本を装
備した特殊潜航艇に乗り込んだ。

しかし多くの青年は徴兵で強制的に連れてこられ、劣悪な環境で落としたくも
ない命を落とした青年の方が圧倒的に多かったはず。一部の人達を神にして英
雄的に扱う。しかし英雄は虚像だった。でも著者はそれを知らなかった。皮肉
な作品です。

「文六」と云ふ筆名は、小林秀雄が『牡丹』と題したエッセイに書いてゐる処
に拠れば、「自分は文士には違ひないが、文豪などと言はれるのよりは、少し
は増しな文士である」と云ふ意味らしい。