投稿者 スレッド: 古本奇譚  (参照数 338 回)

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古本奇譚
« 投稿日:: 3月 01, 2013, 06:03:51 pm »
書名:古本奇譚
著者:出久根 達郎
発行所:平凡社
発行年月日:2009/12/10
ページ:452頁
定価:1600 円+ 税

1993年「佃島ふたり書房」で直木賞を受賞した。杉並区で古本屋を経営しながら
文筆活動をしている。古本屋商売で出会った出来事、人、エピソード、本の話、
作家の価値などをエッセー風に綴った本です。話がいろいろなところに飛んでい
く、どのページから読み始めてもそれなりに楽しめる本です。

「今日このごろ」という言葉、幸田露伴が「昨日このごろ」と書いている本があ
るとのこと。「丁字花さく 昨日このごろ、われ籠(こも)り居の心憂きかも」
昭和30年代にテレビのニュースで「今日このごろ」という言葉が広まった。とで
も露伴の娘「幸田文」が「今日このごろ」と書いた本を昭和33年に出していると
。こんなちょっとした話題がそこかしこに散りばめられている。本との出会いを
楽しくしてくれる。

また本の楽しみ方を教えてくれる。本は読む前から楽しむもの。本屋で雑多に並
んだ本から選ぶ、そして買うか買わないかを考える。そこから実は本を読んでい
る。インターネットで注文して宅配で手に入れた本はどこか物足りない。古本屋
で何年の探し回って手に入れた本、読まなくても手に入れるだけで満足したりし
て人それぞれに本を楽しむ。面白い本です。また出久根氏の視点がすこし斜めか
ら視点もおもしろい。非常にユニークで頑固でそこに筋が通っているところが良
い。

本書より
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この世にあるものには、名がある。名があれば、本がある。ものの数だけ、名の
数だけ、本は出ている。だから読みたい本はすべてある。見つけないだけだし、
見つからないだけである。

「資本家」とは四本蚊なり、即ち四足の蚊。人間の生き血を啜ることは虫の蚊と
同じなれど虫は脚六本、差引勘定二本少なし、而も人間より二本多し。即ち虫で
もなく人間でもない労働者の生き血を啜る一種の吸血動物なり、と「新聞」とは
、女の土左衛門をことごとく美人にする奴。「間抜け」とは、郵便葉書に親展と
書く奴。

効率のみを考え、わずらしさを避けた商売は、遠からず行き詰まる。古本屋に限
らずこれからの商売は、以前のような対面販売に戻るのではないか。私たちはい
つの間にか、肝心のものを忘れていた。売る側も買う側も互いが人間であること
を、ころりと忘れていた。

私たちは知らずしてロボット化していた。人間らしい生き方ではない。会話する
相手は、いつも携帯電話の向こうにいる。電話を通してしか会話が出来ない。な
ぜ直接に、面とむかって話をしないのだろう。こういうことに気づいて、愕然と
する。当たり前だと思っていたことが、実は当たり前でない。

革新を叫ぶ者たちが、うさんくさく感じられて仕方がない。あたらしく変わるこ
とが、必ずしも良いことではあるまい。
古本は歴史の証人である。為政者たちがどのようなことを行ったか、書物は記録
している。これを後の世に伝えるべく手伝うのが古本屋だ。本の命を慈しみ、永
らえさせる商売。本に金銭価値を与えることで本は何百年も生きのびるのである