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科学者が読み解く環境問題
« 投稿日:: 3月 01, 2013, 04:18:58 pm »
書名:科学者が読み解く環境問題
著者:武田邦彦
発行所:シーエムシー出版
発行年月日:2009/10/10
定価:1000円+税

 現代は「誤報の時代」誤報は政治、経済ばかりではなく、科学や環境の分野に
も広く浸透している。いつもユニークな説明であっと目を開かせてくれる。武田
教授の近年本や講演、HP等で発表されてきたことをちょっと学問的にまとめら
れている本です。したがってちょっと難しい。新聞、テレビ等のマスコミの人に
はちんぷんかんぷんかもしれない。まず読む努力も出来ないかも。もっとも今ま
でそんな努力もしていない。耳学問もいいけれど自分の思い込みにその方向に答
えてくれる人ばかり集めている。一種の世間迎合型の記事、ニュースばかり作っ
てきた人達には全く読んでも判らない本ではないかと思う。
 今回初めて知ったのですが、武田教授は幼稚園から定年まで学校という世界ば
かりにいた人と思い込んでいたのですが、経歴を見てびっくり、日窒系(公害で
有名なチッソ)の旭化成で高分子化合物など研究をしていたとか。学者だけでは
なく民間会社の経験があるとのこと。だからかなり自由に自分の考えたことを堂
々と発表される。何処へも遠慮失い発言が出来るのではないかと思う。

 温暖化の問題についてもIPCCの発表されたデータを元に、分析解析して説明し
てくれる。今騒がれている温暖化簡単にいうと100年後に平均気温が3℃上昇する
。また温暖化で被る損害が世界で17兆円(100年後)。毎年温暖化対策に3兆円必
要と言われている。本当に温暖化が悪いことだらけなのか?鋭く問いかけている
。これに答えるのは難しい。
 また科学の歴史、学問の歴史から得た教訓。「科学は学問は未来を予測できな
い」という結論がある。でも「温暖化だけは未来が予測できる」といわんばかり
、そのためには根拠をはっきりと説明する必要がある。今の学問、科学は30年立
てば全く役に立たなくなっているのが今までの経験則。馬車が増えて馬糞問題が
発生したときにノー馬車デーを作ろうという話があった。でもそれまでの経験で
は全く知らなかった自動車が出現することによって馬糞問題はどこかに行ってし
まった。したがって、正しくは今までの人類の持っている英知では未来のことは
判らない。したがって現在の予測は100年後は違っている可能性があると言わなけ
ればいけない。

 リサイクルにしても物理の基本法則を無視した循環型社会などを提唱している
が、循環型社会と言っているのは永久機関が出来ないのと同じように実現できな
い概念。「エントロピーが増大する」ということを聞いて判る人なら当然と頷く
でしょう。判らない人に説明しても判らないのでは?簡単に言うと鉄をくず鉄か
ら鉄を作るという循環をしていくとどんどん使えないものが出て来る。また品質
が悪くなってくる。それでも鉄などは優秀なほうなのでリサイクルはある程度経
済原則が成り立つ。アルミなども。ところががペットボトルなどのように高分子
(これはCと結合数が7、8複雑な結合)化合物は元の結合に戻すためには莫大
なエネルギーが必要になる。特にゴミ、有害物質と一緒になったからそれを分離
するという技術はいまのところない。(経済的にできる)で武田教授はペットボ
トルは燃やして灰にするのが一番良いと言っている。

 この本は250万人と言われている技術者の方に読んで貰いたいと著者は言ってい
るが、現在問題になっていることを全般的に渡って説明している。アウトライン
をつかむのには良い本だと思う。特に個別のことにたいしては専門書があるが、
それでは全く手がでない環境問題などは部分部分の最適化議論に陥って、全体の
最適が出来ない。経済原則(節約、もうける、効率)で世の中考えた方が、変に
政治が介在したり、各国の思惑、戦略で強引に世の中引っ張っていく方が不幸に
なってしまう。分別回収でも住民(主婦→現在該当者が居なくなった)の手間は
無料。役所がやらないと行けないことまで予算がないので住民がということにな
っている。だったら役所でやって貰わないで自分たちでやる方が良いのではない
か?

 この本は判ることは判る、判らないことは判らない。どんな問題が潜んでいる
か?まだまだ研究が必要なところはどこかなどこれからの学問の方向、科学の方
向などもきっちりと提示している。学生であれば卒論のテーマも溢れているよう
な気がする。この本の中にあったことでちょっと面白いと思ったこと。最近交通
事故で死ぬ人が7000人程度、けが人120万人。死ぬ人が減ったと言われているがけ
が人120万人は増えている。(これは統計の取り方の違い)1990年頃から24時間以
内に死んだ人が死亡にカウントされた。

 温暖化で使用されいる平均気温というのは各国定義がバラバラ、日本でも東京
の平均気温は大手町の気温。その他地方の都市部17カ所。そもそも地球の話をす
るときに平均気温すら定義されていない。また観測期間も100年程度。海面上昇に
しても人工衛星で絶対値がはかれるようになったのはつい最近。ツバルが海面上
昇で沈没するのではなく元々珊瑚礁で出来ていた島、満潮時には沈没していた0メ
ートル地帯に飛行場を作った(日本軍その後アメリカ)また戦後は原爆の実験場
として使用されていた歴史。こちらの方がもっと重要ではないかと思う。

 武田教授は学問とは何か?科学とは何か?実験とは?そんな基本が身について
いる人(見習うべきだと)判らないことをそのままにしないで、着実なアプロー
チで突き進んでいく方法論をはっきり持っている人という感じがして言っている
ことに説得力があるように思う。人が言ったこと、マスコミの報道を決して鵜呑
みにはせず自分で確かめ考えていることがよく分かる本だと思います。環境、気
候など分野は広い、広いので全てを網羅することは出来ないだろうけれど。問題
の本質に迫る方法論は正しいような気がする。これは今も昔も変わらないものか
もしれない。最近は職業として学問をする人しかいなくなったので、趣味、道楽
で学問する人がいるのかもしれない。職業とした場合お金を出してくれる人、団
体などと無縁で学問が出来るか?(特に実力もあまりない科学者、学者など)門
外漢の人も自由に発言出来るようになってくると、殆ど知らない人(有吉佐和子
の複合汚染・・・自然ではないものは何となく厭だ。だから将来は危ないと気分
で小説を書いた)の方が多いので科学も、学問も多数決になって全く間違った方
向にいってしまう。この責任は誰も取らない。今回の温暖化でも政府はとんでも
ない約束をしている。これで諸外国の戦略に破れた。莫大なお金を払うことにな
るのでしょうね。

 内容に対して凄く安い本だと思います。こんな本を出しているから武田邦彦は
反発者が多いのかも知れませんね。これが5000円程度の専門書にすると信用する
人が増えるのかも。本の価値と値段というのも研究テーマかも知れません。1リッ
ターのガソリンが130円程度、500mlのお茶が150円これも値段を考える上で面白い
かも。