書名:最後の波の音
著者:山本 夏彦
発行所:文藝春秋
発行年月日:2003/3/15
ページ:412頁
定価:1600円+税
「祖国は国語だ」話して判る言葉を使う。世の中の出来事で原稿用紙1枚で現せないものはない。ひらがなで書いてわかるもの。山、川、草、木位の漢字であらわせるものと言葉を大事にした著者。英和辞典の日本語は日本語ではない。だから出来るだけ使うな?岩波言語も使うな?と。誰にでも判る言葉で表せ、難しい言葉で表さなければならないのは何処かに誤魔化し、偽善が潜んでいる。明治30年から40年までの新聞を小学生の頃全て読み通したとか、出版社を経営しても手形は振り出さない。現金で処理、社員の給料の2倍のボーナスが出せなかったら稼業を辞めると言って45年以上も一つの雑誌「室内」を発行していた。世の中の偽善や正義派の嘘を批判し続けてきたコラムリストの最後の作品集です。
本書より
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おいおい泣いているうちに三つの坂を越す。生意気なことを言っているうちに
少年時代はすぎてしまう。その頃になってあわてだすのが人間の常である。あわ
ててはたらいている者を笑う者も、自分たちがした事はとうに忘れている。かれこ
れしているうちに二十台はすぎてしまう。少し金でも出来るとしゃれてみたくなる。
その間をノラクラ遊んでくらす者もある。そんな事をしているうちに子供が出来る。
子供が出来ると、少しは真面目にはたらくようになる。こうして三十を過ぎ四十五十
も過ぎてしまう。又、その子供も同じことをする。
こうして人の一生は終わってしまうのである。
と中学生の時気がついた。「人生は死ぬまでの暇つぶし」と嘯く。
本書より
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老人がいない家庭は家庭ではないといえば老人は喜ぶ。若者はいやな顔をする。けれども今の老人は老人ではない。若者の口まねばかりする。そんな老人と同棲してもえるものはない。追い出されるのはもっともである。