投稿者 スレッド: 銃・病原菌・鉄  (参照数 369 回)

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銃・病原菌・鉄
« 投稿日:: 3月 16, 2015, 09:03:52 pm »
書名:銃・病原菌・鉄(上)
   一万三〇〇〇年にわたる人類史の謎
著者:ジャレド・ダイヤモンド
発行所:草思社
発行年月日:2000/10/2
ページ:317頁
定価:1900円+税

書名:銃・病原菌・鉄(下)
   一万三〇〇〇年にわたる人類史の謎
著者:ジャレド・ダイヤモンド
発行所:草思社
発行年月日:2000/10/2
ページ:332頁
定価:1900円+税

「文明崩壊」の著者ジャレド・ダイアモンドが以前に書いている本です。98年度ピューリッツァー賞
「現代世界はなぜこんなにも不均衡になったのか」最後の氷河期が終わった約1万3000年前からの人類が歩んできた道を全地球的に分析しながら、同じ出発点から始まった人類の歴史(本当は700万年前)何故こんなにも違ってしまったのか?俯瞰的に眺めながらその原因、要因を追求している。勿論著者も言っているように科学の世界のように実験が出来たり、再現性の確認できるものではないのであくまで推定が混じっているし、理解の仕方も間違っているかもしれない。でもこんな壮大に世界を見せてくれているのははじめて。一人の著者のキャパシティを超えた壮大な世界が展開している。

狩猟採集民から始まった人類、メソポタミア地方、中国(ユーラシア)あたりから家畜を飼い、植物栽培を初めて、狩猟と農耕のはじめ、そして段々農耕をして生産物をとるようになって、蓄積が出来てきて農耕、狩猟以外の人々が生活できるようになった。そして農耕に従事しない人々は王、宗教、政治、税の徴収などに携わるもののが出てきた。ところが地球上ではそんな発展をしなかった地域もあった。
特に南北アメリカ大陸、アフリカ大陸(サハラ砂漠より南)の人々は1万年以上狩猟採集民を続ける。それの答えを家畜と栽培植物に求める。

世界で家畜というのはいろいろあるが、大型家畜は14種しかない。また栽培食物も主要はものは小麦、大麦、トウモロコシ、米、その他。そしてどちらも自然にいたもの、あったもの(野生の原種)を人間の手で改良しながら飼育、栽培したものです。その家畜と栽培植物が普及していくための条件として実は大陸の環境が大きく影響して、ユーラシア大陸は東西に長い大陸気候なども似通っていた。アメリカ大陸には北のアラスカを超えることが難しかった。また北と南アメリカにはパナマのように狭い場所、そして熱帯地帯があった。アフリカ大陸も北部はユーラシア大陸と似ているが、サハラ砂漠より南は南北に大差があった。オーストラリア大陸は豊穣な土地が極端に少なかった。
現在では動物の宝庫といわれるアフリカに家畜の原種が居なかった。というは信じられないかもしれないが、シマウマは馬と同じように人間には制御できなかった。カバ、サイ、虎なども同じ。家畜になるような原種がいた大陸と居なかった大陸との違いによって大きな差が出てきた。

アメリカのインディアンが馬に乗って走り回っている映画のイメージでいるが、これは1492年コロンブスのアメリカ大陸発見?以降のこと。アメリカ大陸にも家畜に向いた原種はいなかった。
銃と軍馬―― 16世紀にピサロ率いる168人のスペイン部隊が4万人に守られるインカ皇帝を戦闘の末に捕虜にできたのは、これらのためであった事実は知られている。

世界の文明の推移を追いながら知的好奇心を満足させてくれる名著です。世界の歴史、人類史を1万3000年に渡って俯瞰的、概略的に描いています。大枠を理解するのに良い本だと思います。
「人類や民族によって異なる経路を辿ってのは別に謎ではない。人種や民族による生物的な差違が、その歴史的発展の差違を生み出したのだ。」これは現代の文明人の方が人種的に優れているという考え方の根拠となるが、ジャレド・ダイアモンドはそうは言っていない。「歴史は、民族によって異なる経路を辿ったが、それは居住環境の差違によるものであって、民族間の生物学的な差違によるものではない」と。東京にいる若者とニューギニアの山岳にいる若者と生物学的な差違はない。

15世紀からヨーロッパのはぐれ者たちが新大陸(アメリカ、オーストラリア)へ向かって押しかけていって、ピサロの如く次々と征服していった。そしてその後も入植がつづき、もといた民族は絶滅もしくはごく少数となってしまった。それの主な原因は銃・鉄。でも家畜を飼う習慣のなかった現地の人達は実はヨーロッパから持ち込んだ病原菌(動物が発生源のウィルス)によって絶滅してしまった。ユーラシア大陸のヨーロッパの人々は長年に渡ってウィルスの免疫があった。

「はるか昔、同じような条件でスタートしたはずの人間が、今では一部の人種が圧倒的優位を誇っているのはなぜか。著者の答えは、地形や動植物相を含めた「環境」だ。」と。
権力者が被支配者を支配する仕組みとして巧妙に宗教の力を利用してきた。宗教の本義というところが見えてくる。15世紀の中国は清王朝の時代、世界で一番進んだ時代だったのに何故?中国はヨーロッパのように世界征服に乗り出さなかったのか?船団をもってアフリカまで航海した実績があるのに。著者はヨーロッパ小国に別れて統一されていない。ところが中国は政治もしっかりしていて統一されていた。当時の宮廷内で派閥争いがあり宦官派が負けて船団は廃止となった。歴史の転換点となるような決断のとき、統一された国家と統一されていない国家の差が出た。コロンブスは最初フレンスに、5回目にスペインの援助で船を出すことが出来た。この本はじっくり読んでみたい本です。原書は400頁の本だとか、1頁に150年が詰め込まれています。


1361夜『銃・病原菌・鉄』ジャレド・ダイアモンド|松岡正剛の千夜千冊
http://1000ya.isis.ne.jp/1361.html

本書より
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今日の世界現状からのジャレド・ダイアモンドの問題意識は、「現代世界はなぜこんなにも不均衡になったのか」ということにある。これをいいかえると、「世界の富や権力はなぜ現在のようなかたちで分配されたのか」という問題になる。なぜ、他の文明がイニシアチブをとり、なぜ他のかたちで分配されなかったのかということだ。
 これを反対のほうからいいかえれば、南北アメリカの先住民、アフリカ大陸の部族や民族、オーストラリア大陸のアボリジニは、なぜヨーロッパ系の力を打倒しなかったのか、征服しなかったのかということだ。