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銀漢の賦
« 投稿日:: 2月 25, 2015, 08:34:54 pm »
書名:銀漢の賦
著者:葉室 麟
発行所:文藝春秋
発行年月日:2007/7/15
ページ:245頁
定価:1381円+税

銀漢(ぎんかん)とは銀河のこと。漢(おとこ)の意も。葉室麟の作品の特徴を良く現しているひとつのパターンで書かれている。その後の作品もこのパターンが多い。小藩の小役人、そして藩の改革、お家騒動、藩内が揺れ動く、その中で武士がどう生きるか?どう行動するか?葉室流武士道を描いている。そして和歌、俳句、漢詩を交えながらの展開。

この作品も宋の詩人・蘇軾の「中秋月」に「銀漢声無く玉盤を転ず」からとった「銀漢の賦」というタイトル。江戸時代寛政期、西国の月ヶ瀬藩の幼馴染みで、同じ剣道場に通っていた二人、郡方・日下部源吾と名家老と謳われ、幕閣まで名声が届いている松浦将監。あることが原因で絶縁状態となっていた。晩年二人が出会ったとき、藩内の大騒動に巻き込まれる。男の晩年の運命に2人は互いに嫌みを言いながら立ち向かう。250ページ程度にしては中味も濃い、ストーリー展開もなかなか良い。これが葉室麟のパターンという作品。作家デビューが遅かったので、最近書き急ぎすぎ過ぎている感がしているが、この作品は良いと思う。第十四回松本清張賞受賞作。 先日までNHK総合で放送していた作品。

本書より
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玲瓏山に登る   蘇軾
 
 何年僵立す両蒼龍              僵立(きょうりつ)
 痩脊盤盤として尚空に倚る          倚る(よる)
 翠浪舞い翻る紅の罷亞            罷亞(ひあ)
 白雲穿ち破る碧き玲瓏            玲瓏(れいろう)
 三休亭上巧みに月を延き           延き(ひき)
 九折巌前巧みに風を貯う
 脚力尽きる時山更に好し
 有限を将て無窮を趁うこと莫れ        趁う(おう)

玲瓏山には二頭の青龍にも似た。二つの高い峰がある。蘇軾は二つの峰は一体、何年の間、聳え立っているだろうか、と思いはせたのだ。二つの峰は老人の背骨のように折れ曲がって空によりかかっている。田圃は紅色に色づき、青葉は風に翻っている。白雲を突き抜ける峰を眺めながら山に登れば、月を見るのによい三休亭がある。風が心地よく、ここで歩き疲れた足を休める時、山の景色は一段と美しい。限りある人間の身で無窮の美をこれ以上、追い求めてはいけない。