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秋月記
« 投稿日:: 2月 12, 2015, 01:07:18 am »
書名:秋月記
著者:葉室 麟
発行所:角川書店
発行年月日:2009/1/31
ページ:287頁
定価:1700円+税

この著者はお家騒動を題材にした小説が多い。この本も福岡の黒田家の支藩として、筑前秋月(現福岡県朝倉市)の5万石。筑前秋月藩(江戸時代正式名称としての藩というのはなかった。明治の一時期藩という名称が使われたことが)したがって通称として藩と便宜上言われている。本当は黒田伊勢守とかと言われていたようです。

閑話休題 
ちなみ九州の九州の名族で戦国時代には、筑前・筑後・豊前などに所領を持っていた秋月家とは筑前秋月藩とは関係がない。この秋月家は高鍋藩(日向国)移封される。上杉鷹山は米沢藩に養子として入っている。

物語は福岡藩(本藩)と微妙な関係にある越前秋月藩(支藩)の立ち位置、両者の支配関係が大きなテーマになってくる。隙あらば福岡藩が支配(吸収)しようと虎視眈々と狙っている。家老の宮崎織部は権力を握り、専横を益々極める。そんな家老に不満を抱く藩士は多い。間小四郎は志を同じくする仲間とともに糾弾に立ち上がり、本藩の福岡藩の援助を得てその排斥に成功する。後に「織部崩れ」と呼ばれることになる事件。

ところがこれが成功だったのか?不成功だったのか?みんなから悪く言われて、誰もが悪人だと思っていた宮崎織部の作戦は?福岡藩の援助を得てその排斥に成功というのはこんな小藩にはあり得ないこと。本藩の援助を頼った時点で独立は脅かされる。そのことを骨身にしみて分かったときには間小四郎たちはどっぷりと本藩の支配の中にいた。そこからこの小藩をどう立て直していくか?悪人になって間小四郎が孤軍奮闘する。そしてひとり、捨て石になる覚悟を決める。そんな物語。

本書より
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「ひとは美しい風景を見ると心が落ち着く、なぜなのかわかるか」
「さてなぜでございますか」
「山は山であることを迷わぬ。雲は雲であることを疑わぬ。ひとだけが、おのれであることを迷い、疑う。それゆえ、風景を見るとこころが落ち着くのだ」

「間小四郞、おのれがおのれであることにためらうな。悪人と呼ばれたら、悪人であることを楽しめ。それが、お前の役目なのだ」

孤り幽谷の裏に生じ
豈世人の知るを願はんや
時に清風の至有れば
芬芳自ら持し難し

広瀬淡窓の「蘭」と言う漢詩

蘭は奥深い谷間に独り生え、世間に知られることを願わない。しかし、一たび、清々しい風が吹けば、その香を自ら隠そうとしても隠せない