書名:誰も「戦後」を覚えていない
著者:鴨下 信一
発行所:文藝春秋社
発行年月日:2005/10/20
ページ:219頁
定価:720+税
昭和20年8月15日から昭和25年までの5年間の出来事を食糧難、殺人電車・列車、間借り、闇市、預金封鎖、美空ひばり、復員野球、ラジオ文化などを常識やぶりの視点で振り返る。著者が経験してきたことを綴っている。
敗戦直後、銭湯に行く時は、衣類を盗まれないよう包むため、みんな風呂敷を持参し、もし盗まれたら別の人から盗んで盗むといわずに「これは取り換えなんだ」と自分に言い聞かせていました。そう、日本人すべてが盗みの犯人だったのです。だが、もう誰もがこんなことを忘れている。
食料の買い出しに田舎へいく列車は今の満員電車なんてものじゃない。殺人列車、列車の箱にぶら下がって碓氷峠、トンネルを越えたことも。断片的に聞いてきた話だったが、この本を読むと実感が出来る。そして忘れてしまうのでしょうね。特に時間感覚というのは覚えていないみたい。美空ひばりは生きているときはみんなから白い目で見られいじめられてきた。亡くなると持ち上げられている。
小さな少女の頃から生意気な歌を歌っていた。それも下顎だけを動かす独特の動作(英語の発音は下顎を動かす)。日本語の歌を英語の発音で歌っていた。それが何となく毛嫌いされた理由ではないかと著者は言う。アメリカをうらやましく思った時代、みんなの心の中を覗かれたような気がしたのではないだろうか?
闇市と言いながら、「青空マーケット」とも言った。新円切り替え、預金封鎖は法律を作らず通達で行った。今後、国債の償還などが出来なかった。戦後直後の預金封鎖、新円切り替えの手法がとられるのではないか?
言論統制されていた戦前でも、原子爆弾の情報は2,3日で市井の人々まで広まった。玉音放送を聞いた日本人は多かった。事前にアナウンスを何回もやっていた。またその内容は子供にでも分かった。教育勅語の文面と変わらなかった。そして天皇陛下の言葉の後、アナウンサー(放送員)がもう一度読み直して、その後説明もあった。とのこと。
たった、60年前のことでも覚えていない。伝わっていない。誤解と誤解で世の中は進んでいるということがよく分かる。なかなかおもしろい本です。