書名:歴史とは何か 岡田英弘著作集Ⅰ
著者:岡田 英弘
発行所:藤原書店
発行年月日:2013/6/30
ページ:430頁
定価:3800円+税
「歴史とは何か」と改めて問われると意外と難しい。岡田史学と呼ばれ学会からは完全に無視されてきた著者が生涯の著作を全集8冊に纏めて刊行された本の第一回配本された本です。著者はモンゴル語をはじめ朝鮮語、チベット語など14カ国語に通じている。シナの研究に漢字圏以外の資料にあたっているので、今まで公になっていなかったことが一杯盛り込まれている。
世界の文明には歴史を持った文明、歴史を持たなかった文明がある。メソポタミアからギリシャ・ローマ・ヨーロッパに発生した文明は歴史を持っている。またシナの文明も歴史を持っている。世界ではこの2つの文明だけが歴史を持っている。その文明に隣接している地域が対抗上歴史を持たざるを得なくなって持っている。
インド文明、アステカ文明などは歴史をもっていない。またアメリカ、ロシアも歴史を持っていない。世界で歴史を持っている文明は珍しいものだという認識をしないといけない。また文明は進化するということを言い出したのはダーウィンの進化論時代からで、そもそも世の中どんどん進むということはなく、退化する。現状維持することも充分考えられる。
著者は「歴史は文学である」。したがって「歴史家はみな文学者でなければならない。歴史を書くと言うことは創作活動なのである」また「歴史は過去に起こった事柄の記録ではない。歴史というのは世界を説明する仕方なのである」歴史には「いま」と「むかし」しかない。という。
シナの歴史は司馬遷の「史記」によってひな形が出来た。これは現王朝が一番理想的な王朝で、その王朝の正当性を記述するという政治的な意図を持った歴史の記述の仕方。これが朝鮮、日本にも伝搬されている。また世界史という観点は全然入っていない。シナが世界と考えている。天から指名されたから皇帝となる資格がある。徳を失った皇帝は滅ぼして、徳があれば皇帝についても良い。という思想。
また世界最初の歴史「ヒストリアイ」ヘロドトスはペルシャ軍に攻められて、それを撃退したギリシャ軍の戦争が書かれている。ヒストリーの語源ともなった歴史。(ヒストリアイは研究調査ということを指す)これには黒海周辺のギリシャとアジアの海峡はさんだ世界の話。ギリシャから見たアジアというのはこの海峡より西側のこと。ギリシャからみたアジアは蔑視する対象として書かれている。白人優先の後の植民地主義に繋がる思想が含まれている。
世界にはこの2系統の歴史しかないと言える。著者は世界史というのは
「1206年の春、モンゴル部族のテムジンという首領が最高指導者選挙で『チンギス・ハーン』と名乗った。これがモンゴル帝国の建国であり、また、世界史誕生の瞬間でもあった」。とモンゴルがシナをはじめユーラシア大陸を勢力下にしたとき初めてアジア、ヨーロッパが繋がった。そのとき初めて世界史が始まったと言っている。それまではシナ、朝鮮、チベット、アフガニンスタン、ロシア、東ローマ帝国などはそれぞれが別々に活動していた。自分の地域だけしか考えられなかった。
今までの世界史の見方とは全然違って新鮮だ。現在中国と呼ばれている地域もじっくり見ていくと漢人が支配していたのはほんの少しの期間で、その後はモンゴル族(元)、満州族(清)など異民族に支配されている中4000年の歴史というのも眉唾もの。最後は中国共産党の支配する国90年ほどの歴史。断絶した歴史があっただけ。特に日清戦争以降シナも日本に留学生を沢山送って、日本と同じように西欧化を行おうとした。民族、自由、国家、国民などの漢字は日本語(明治時代西欧の言葉を日本人が漢字を作った)元々漢語にはなかった言葉が中国にも普及している。
ヨーロッパ系統の歴史とシナ系統の歴史、そして各国々にある歴史を統合するということは非常に難しいこと。今、西洋史と言われているのはヨーロッパ系統から見た歴史であり、シナ系統の歴史とはいろいろな場面で矛盾だらけである。また日本の歴史、韓国の歴史、中国の歴史など真の歴史というものは存在しない。今、歴史認識を同じになどと騒がれているが、歴史は物語、政治的意図をもったものと考えればいつまで立っても統一した見解など出てくるわけがない。
歴史は実証科学のように、証拠を出して証明することは非常に難しいもの、歴史的資料などには必ず人の主観が入っているもの。無辜の第三者が公正な視点で資料を作っているわけではないので、推理小説と同じように、ある意味曖昧な資料を基に誰でも納得できそうなストーリー(因果律)を作っていく作業。そこには良い、悪い、価値判断を含めてはいけない。現在の価値判断で過去の歴史を判断してはいけない。(これは当たり前のことですが、これが出来ない人が多すぎる。歴史には良いも悪いもない。
日本から見た世界史を提案している。これから刊行される本が楽しみです。この本を読むと歴史観が全く違ってくる。是非手にとって見たい本です。でも横浜市の図書館には1冊しかない(それも中央図書館に)。百田尚樹の「海賊と呼ばれた男」の80冊とはえらい違い。
国民国家というのはフランス革命後に出てきた概念、ナポレオンが国民(君主がお金を払って軍隊を作ったのとは違って)を徴集するだけで大勢の人を集めて戦に勝っていくことを見て、国家、国民というのは良いものだと各国が考えた。戦争のために国家が出来た。そして国境も。
日本史は面白かったが、世界史は嫌いという人も多かったのではないかと思うけれどこの本を読むと世界史というのも面白いと思う。岡田史学から見た歴史から世界を眺め直すと歴史を持った文明の強みが見えてくる。この余裕が歴史持たないアメリカ、ロシアにないところ。アメリカスタンダードというのは普遍的なものではなく特異なものだということが判ってくる。民主主義、共産主義も。自分の視点を大きく広くしてくれる。イデオロギー、思い込みに偏らずに素直に読むとよく見えてくると思います。歴史はともすると、思い込みが大きいので、まず冷静に素直にが必要では。良否の判断はしない。道徳は考えない。学会の学者、専門家と呼ばれる方々にじっくり読んで欲しい本だと思います。
東京新聞:『岡田英弘著作集I 歴史とは何か』
http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/jicho/list/CK2013122402000207.html【書評】『岡田英弘著作集1 歴史とは何か』岡田英弘著
http://sankei.jp.msn.com/life/news/130825/bks13082508380005-n1.htm