投稿者 スレッド: 蛍草  (参照数 356 回)

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蛍草
« 投稿日:: 9月 10, 2017, 08:28:53 pm »
書名:蛍草
著者:葉室 麟
発行所:双葉社
発行年月日:2015/11/15
ページ:372頁
定価:676 円+税

十六才で風早家に女中奉公に出た菜々、実は藩士・安坂長七郎に嫁した赤村の
庄屋の娘・五月が生んだ子であった。長七郎は、菜々が三歳の時、城中で轟平
九郎との間で刃傷沙汰を起こして、切腹を仰せつけられ、母も亡くなってしま
った。風早家は150石取りで暮らしは楽では無かった。主人風早市之進には妻
の佐知、正助ととよの二人の子供がある。市之進が追求している藩内での勘定
方の不正問題の解明が作品の筋になっている。

この菜々が夏の日に築地塀のそばの日陰の草取りをしていて、ふと目に止めた
のが青い小さな花、露草である。
 奥方の佐知が菜々に教える。この露草が万葉集には月草と記してあり、俳諧
では螢草と呼ぶそうだと。そしてこの和歌を菜々に教える。蛍草というきれい
な呼び名に、菜々は目を輝かせる。佐知は言う。「そうですね。きれいで、そ
れでいて儚げな名です」「螢はひと夏だけ輝いて生を終えます。だからこそ、
けなげで美しいのでしょうが、ひとも同じかもしれませんね」(p10)

「月草の仮なる命にある人をいかに知りてか後も逢はむと言ふ」という和歌の
底流に流れている。

その優しく接していてくれた佐知が労咳を患い、夫とふたりの子供を残して亡
くなってしまう。佐知を姉のようにも感じ、目標とも敬慕していた。その後の
菜々の人生を変えていく。
、正助ととよという二人の子供を残して、儚くも亡くなってしまう。それが、
佐知を姉のようにも感じ、敬慕していた菜々の人生を変えて行くことにもなる。
風早市之進への思慕から、しのぶ恋に!
山本周五郎の小説のような優しい、ほのぼのとした後味が残る作品です。じっ
くり読める本です。

本書より
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謂われがなくとも、ひとは誰かのことを案ずるものです。  p90
女子は命を守るのが役目であり、喜びなのです。 p98

ひとは相手への想いが深くなるにつれて、別れる時の辛さが深くなり、悲しみ
が増すそうです。ひとは、皆、儚い命を限られて生きているのですから、いま
このひとときを大切に思わねばなりません。 p109

商売がうまくいくやり方はわからないけど、どうやったらしくじるかはわかる
ようになったよ。・・・・続けないからだよ。うまくいかないからって、すぐ
あきらめてしまうのさ。 そうとは限らないよ。いくら続けてもうまくいかな
い商売なんてざらにあるからね。だけど、続けないことには話にならないのさ。
物を売るってのはお客との真剣勝負だと思うね。勝負するには、まずお客に信
用してもらわなきゃいけない。あいつは、雨の日だろうが、風の日だろうが、
いつもそこにいるってね。   p201-202

ひとの心を癒すのは言葉をかけることも大事だが、要は心持ちだ。何も言わず、
ただ行うだけの者の心は尊いものぞ。  p241

ひとにとって、大切なものは様々にあるが、ただひとつをあげよと言うならば
心であろう。心なき者は、いかに書を読み、武術を鍛えようとも、おのれの欲
望のままに生きるだけだ。心ある者は、書を読むこと少なく、武術に長けずと
も、ひとを敬い、救うことができよう。  p288

生きておる限り、この世に終わったと言えることなどないのだぞ。 p308
自分を大切に思わぬ者は、ひとも大切にできはせぬ。まずは精一杯、自分を大
切にすることだ。どんなに苦しかろうと、いま手にしている自分の幸せを決し
て手放してはいかん。幸せは得難いもので、いったん手放してしまうと、なか
なか取り戻せないのだぞ。 p310

螢草 葉室麟著 「人生の教科書」と呼べる傑作
https://www.nikkei.com/article/DGXDZO51656360T10C13A2NNK001/