投稿者 スレッド: 原発賠償の行方  (参照数 230 回)

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原発賠償の行方
« 投稿日:: 8月 27, 2013, 05:33:30 pm »
書名:原発賠償の行方
著者:井上 薫
発行所:新潮社
発行年月日:2011/11/20
ページ:189頁
定価:680円+税

この本は福島第一原発事故を法律の観点から原発事故を法的に冷静に分析している。すべて東京電力に責任があるように報道その他で言われているが、「現行法に照らし合わせた場合、東京電力にどの程度法的責任があるのか」原発事故に関しては、「原子力損害の賠償に関する法律」(原賠法)があり、事業者は故意であっても、過失がなくても賠償しなければならないと規定されている。つまり、原発事故を起こした時点で、東電には賠償責任が発生しているのだ。しかし、原賠法は、異常に巨大な天災の場合は免責にする、とも規定しており、今回の東日本大震災は明らかにこの規定に当てはまる?から、納得は出来ないが、東電には賠償責任がないという論拠も成り立つことだ。この場合の賠償は誰がするかというと国がすることになる。上記の免責がない場合は東京電力の責任になる。

ところが、2011年8月決定した「原子力損害賠償支援機構法」はとんでもない法律。東京電力は倒産してでも賠償金を払うのであれば納得もするが、国は東京電力に賠償金を貸し付け、東京電力が賠償を行う。その貸付金は結局、東京電力以外の他の電力会社にも割り振られて、電力料金の値上げによって賄われる。とすると、これは国民が負担しているだけの話であって、本来賠償責任に応ずべき東京電力の責任については全く曖昧なのである。東京電力は何もしない。倒産の危機もない。これでは原子力発電を止めようとか、事故処理(汚染漏れ、解けた炉心の処理、廃炉)も危機感をもってやるはずがない。

法治国家である我が国は事件、事故が起きた時点の法律で裁くというのが基本。「原子力損害賠償支援機構法」は事故を起こした東京電力以外の電力会社、そしてお客様(値上げ)で補償金を捻出するという法律。明らかに事後法です。原発事故は起こらないもの、そこで事故が起こって慌てて、賠償はどうする。慌てて自己責任当事者を救うために、他の電力会社、電気料金値上げで得たお金が投入できるようにした。国民の財産を守るという政府の役割を放棄した法律。

当時の菅政権は憲法違反を行っている。浜岡原発停止要請について、内閣に、原発停止を命じる権限などありはしない。法律にないことを好き勝手にできるのであれば、それは法治国家の名に値しないであろう。あくまで要請で押し通したが、命令と中部電力は受け取っている。また、枝野官房長官から東京電力の債権者へ債権放棄要請。等例えそれが良いことであっても法律に基づかないものは法治国家とはいえない。
読んでいてちょっと注目したいこと。
原発事故における被害者であっても原発を誘致することを容認、賛成していた被害者には「過失相殺」の適用である。原発立地には、巨額の補助金や交付金が投入されており、実際に町の中には「原発増設決議」を行った町さえある。原発が増えれば、交付金も増えるからである。これらの交付金や補助金は、原発の危険性の受忍と引き換えにされたものであるから、賠償金からその部分を差し引くべきである、という指摘である。自動車事故で被害者にも責任がある場合(例えば赤信号無視で渡っていて惹かれた等)は加害者の過失は割り引かれる。感情的にはちょっと納得できない部分もあるが、法的に考えるとこんなことも争点になってくる可能性がある。

外国からの賠償請求。原発事故の国際賠償に関する条約には、パリ条約、ウィーン条約、原子力損害の補完的補償に関する条約の3つがあるが、日本はどれにも加盟していない。(原発は安全、事故は起こさない)加盟していれば福島原発事故に関する賠償裁判は日本で行われるが、実際には加盟していないため、外国人は自国の裁判所で裁判を行うことができる。日本側に不利な判決が出てもどうすることもできない。(実際にアメリカのともだち作戦に参加した人々から請求がありましたね)

また、この賠償請求というのは当事者が請求しないといけない。また証拠をきっちりと示さないと裁判には勝てない。(裁判は法的にを厳格に進めていくもの)
こんなに大きな事故で大多数の被害者が出た。また条件の違うひとが多い場合裁判で解決するというのは実際的ではないので、紛争審査会(この事故後に作られた)を利用して和解の話をするのが、早く解決する方法だと言っている。それでも不服のある人は裁判をすることになる。

時には被害者にも厳しいことも出てくるが、法的に整理するということに徹して東京電力の責任、被害者の被害の確定、賠償請求の範囲を決めるための論理的な整理点をまとめている。今までマスコミなどは全く法的な視点がない議論ばかりをしていたような気がする。感情論ではなく、原発に反対、賛成など視点もなく、純粋に法的な論点を示してくれている。勿論法の解釈はこれからいろいろ出てくるだろうが基本的なことは網羅されているように思う。一読の価値あり。


本書より(カバー)
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法律も枠組みも決まったから賠償は粛々と進行する…なんて思ったら大間違い。福島第一原発事故の賠償は、建国以来最大の法律問題であり、そう簡単に事は進まない。今後、全国民にツケが回されること必至。外国からの賠償請求額は想像もつかない。なぜこんなことになったのか。法律無視の政府と安全神話を盲信した専門家の責任を厳しく糾し、採るべき道を探る。法律家の目で論点を冷静に整理、検討した独自の論考。

【もくじ】
第1章 日本最大の法律問題が登場した
第2章 損害とは何か
第3章 東京電力は「有罪」確定か
第4章 法律的検討をする
第5章 賠償の実際を考える
第6章 福島の教訓を考える