投稿者 スレッド: 風流武辺   (参照数 301 回)

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風流武辺 
« 投稿日:: 5月 06, 2015, 11:44:36 am »
書名:風流武辺 
著者:津本 陽
発行所:朝日新聞社
発行年月日:2002/2/1
ページ:526頁
定価:760円+税

上田宗箇(そうし)と言う茶人の生涯を描いた歴史小説。でも上田宗箇は全く知らなかった人です。丹羽長秀の家来として武名を轟かせた人物で、織田、豊臣、徳川とそれぞれの政権下で弱肉強食の世界を武人として明日のことは判らない。いつも死と隣り合わせの武人として懸命に生きた。織田政権下で丹羽長秀は豊臣秀吉とは同僚で織田信長が本能寺の変で亡くなったとき、豊臣に味方するか、柴田勝家に味方するか、その決断に丹羽長秀は迷う、また豊臣の政権になっても、「あの猿が」と悔しがっていた長秀、その主君に使えた上田宗箇、豊臣秀吉が亡くなって、関ヶ原の戦いでは豊臣方の武将として参加する。しかしなぜか生き永らえることが出来たのは何故?

上田宗箇は命をはかなみ、戦場で殺すか殺されるかという戦国の世を達観して、いつでも死ねるという境地で日々を過ごしている。そして俗世とは一線を画した世界に茶道があり、その茶道を長秀、千利休とも交流があり、古田織部を師として学んでいた。また徳川秀忠とも交流があり、浅野長政・幸長親子とは親戚づきあい。そして茶道も得意としたが、徳島城、和歌山城、名古屋城、広島城などで枯山水の庭づくりにも特異な才能を発揮する。

今でも広島には上田宗箇の子孫が上田宗箇流という茶道の師匠(十六代家元)が続いているようです。
今で言うと所領1万石の中小企業の社長、戦国時代という激動の時代を常に合戦の矢面に立ちながら己を貫いて生きた一人の武人、茶人の壮絶な生涯を描いている。妻のふくに「庭の木や石は自分が死んでからも残る。現世に己が心を残してみようとたくらんでいる」と語っている。乱世が生んだ美を追究した人。美とは何か?、人とは何か?生きるとは?文化とは?考えさせられる。なかなか迫力のある面白い作品です。

「庭の木や石は自分が死んでからも残る。現世に己が心を残してみようとたくらんでいる」と語らせています。宗箇は秀吉や家康とは違った意味で精神を現代まで残した稀有な人物なのでしょう。
戦場で死ぬか、失敗すれば切腹か、主君に命の綱を握られていた理不尽な戦国時代。その時代に長生きをした人ですからそういう使命を持って生まれた人なのでしょうか。

NHKのアーカイブに下記のような番組が紹介されていた。
“「武士(もののふ)の庭~上田宗箇・乱世が生んだ美~」( 2009年1月2日 デジタル総合)
 日本庭園の常識を覆す異色の庭を築いた男、上田宗箇。俳優の滝田栄さんが、一番槍の武将であり茶人でもあった宗箇の庭を巡り、乱世を生きた武将の心と美の世界を紹介する。徳島城千秋閣庭園の荒々しい石組。名古屋城二の丸庭園の宙に浮かぶような石橋。日本庭園の常識を覆す異色の庭を築いた男がいた。上田宗箇。一番槍 (やり)の武将であり、「上田宗箇流」の開祖となった茶人である。最近の研究で、謎に包まれていた人生と、独特の美意識が明らかになってきた。数々の番組で戦国武将を演じてきた俳優の滝田栄さんが、日本各地に残る宗箇の庭を巡り、戦国の世を駆け抜けた武将の心と美の世界に迫る。“