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昼は雲の柱
« 投稿日:: 11月 09, 2013, 10:52:54 pm »
書名:昼は雲の柱
著者:石黒 耀
発行所:講談社
発行年月日:2006/11/28
ページ:496頁
定価:2000円+税

「昼は雲の柱、夜は火の柱」は聖書に出てくる言葉、実は火山の噴火を現している言葉。この小説は富士山噴火シュミレーション小説、富士山の最悪の噴火シナリオを描き,静岡県民を驚愕させることとなった。主人公は火山学者の娘・真紀、実業家の息子・亮輔は、御殿場市に住む父親同士(小学校から同級生でいつもケンカばかりしている幼友達)と富士山麓で発見された謎の遺跡の発掘現場で出会う。
その遺跡を覆う地層は富士山で知られていない大規模な火砕流が御殿場市街地の近くまで達していたことを示していた。観光開発を進めている実業家は、火山学者の調査を拒む。

2004年完成したばかりの富士山ハザードマップが登場し,マップにもとづいた避難計画が発動する。この避難計画は,政府の中央防災会議が2006年2月に定めた富士山の火山防災ガイドラインそのものである。このガイドラインに沿って避難するところなど、実際の避難のシュミレーションとして充分使える。実際に即した手引きとなる内容です。発生する噴火現象も,途中まではハザードマップで予測された現象を元にしている。しかし物語はハザードマップにはない、御殿場市内全域を巻き込んだ破砕流と「想定外の現象」が起きる。これも2900年前に起こった地震の溶岩流の流れをトレースしている。

科学的な地震、噴火など詳細に冴えた物語の中に、不老長寿の薬を求めて秦の始皇帝が派遣した徐福伝説がこの富士山麓に国を作って、除福はここで亡くなった設定になっている。また日本書紀、古事記の日本の神話の物語は火山活動を描いたものだと説得力のある話になっている。また宮下文書、旧約聖書、新約聖書以前の世界も出てきて古代神話の中での火山の位置づけを明確に捕らえている。これを荒唐無稽と読むか、それともひとつの面白い説と読むかは読者の視点に任されている。

宝永噴火の時、富士山山麓の人々はほっておかれて、義援金は江戸に配られた。災害とは人がいるから起こる。人のいないところは災害とは言わない。火星に大隕石が衝突しても災害とはいえない。富士山山麓のようにほとんど人のいないところは注目されない。それよりは江戸市中。それは現代も変わらない。宝永噴火と同程度の噴火であれば東京あたりでは2,3センチの灰が降ってくる程度。

それで都市機能がマヒして大災害になると大騒ぎしている。そして復興資金はその東京に配られるであろう。御殿場市など富士山麓の人々には本の少しだけ回ってくる。この物語でも富士山の噴火をネタに、予算を獲得しようとする学者、政治家が暗躍するところなどよく見ていると思う。ここでも弱いものと強いものの不平等が出てくる。500ページに近い大作ですが、一気に読んでしまった。富士山噴火の防災福読本として読んでも良いような内容です。

小説家・石黒耀さんの富士山噴火シミュレーション『昼は雲の柱』(07.06.03)
http://www.bayfm.co.jp/flint/20070603.html