投稿者 スレッド: 慈雨の音  (参照数 488 回)

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慈雨の音
« 投稿日:: 12月 27, 2012, 03:33:31 pm »
書名:慈雨の音
   流転の海 第六部
著者:宮本 輝
発行所:新潮社
発行年月日:2011/8/30
ページ:413頁
定価:2100円+税

敗戦の焼け野原から十四年。皇太子御成婚や日米安保、東京オリンピックのニュースに沸く昭和三四年、松坂熊吾と妻房江、息子伸任。熊吾は62歳、駐車場経営は軌道に乗りなんとか親子三人の暮らしも安定してきた。私立中学校に通う伸仁も思春期を迎える。在日朝鮮人の北朝鮮帰還事業が始まって、親しくしていた朝鮮の人々との別れ、戦後より数々の因縁があった海老原太一の意外な報せが届く。大阪の町に静かな雨が降る―。人は真摯に生きるとき、諍いの刃を受ける。しかし己れが春の風となった微笑めば、相手は夏の雨となって訪れ、花を潤す。著者の自叙伝「流転の海シリーズ第六部」まだまだ続きそうです。昭和の時代を懐かしくさせてくれる。遠い自分の子供時代の体験を思い出させてくれるはんなりとした小説です。

本書より
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夫が三十代の前半だった頃の日本という国の異様な勢いがあと押ししてくれたのだが、松坂熊吾持つ運と勝負勘のようなものが、うまく噛み合ったのであろう。
しかしそれらはあの戦争で一変して、日本という国の根底が変わると同時に、夫は歳を取り、さらにそこへまさかと驚く出来事が起こった。伸仁という子を授かって、夫は五十歳で始めて父親となったのだ。
伸仁の誕生以来、神戸の御影から南宇和へ、南宇和から大阪市北区中ノ島の西端へ、底から富山へ、富山から再び大阪の中之島へ、その間、伸仁は尼崎の蘭月ビルへ。
自分は、もっと転々と移り住んできた気がするが、いまこうやってひとまず福島西通りのシンエー・モータープールの二階に安住の場所を得て、日々の生活の心配をすることなく暮らしている