投稿者 スレッド: 歴史家・ 磯田道史さんと考える「過去の知恵」  (参照数 430 回)

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歴史家・ 磯田道史さんと考える「過去の知恵」
« 投稿日:: 1月 02, 2021, 01:15:28 pm »
歴史家・ 磯田道史さんと考える「過去の知恵」 - つみかさね
https://3yokohama.hatenablog.jp/entry/2021/01/02/131055

文春新書『感染症の日本史』磯田道史
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784166612796

昨年の4月、コロナウィルスの流行の予想について磯田道史氏が書いた。その
予想は今を予想していた。その原点となった歴史、スペイン風邪の調査研究(
恩師 速水融)などを紹介しながら、その特徴、概要を述べながら鷹山の天然
痘対策を参考に、今回のコロナウィルス対策の教訓を述べている。一読の価値
あり。

ちょっと気づいた点、メモ書き
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スペイン風邪、日本での犠牲
 速水融氏の調査によると、スペイン風邪による死者は、「日本内地」だけで4
5万人、樺太で3800人、朝鮮で23万人、台湾で4万9千人に上る。
その研究は、感染による死者の規模を明らかにしただけではない。スペイン風
邪が「3波」にわたって襲ってきたことを明らかにしたことが、さらに重要だ、
と磯田氏は指摘する。それは以下のような経過をたどった。

第1波 1918(大正7)年5月~7月
高熱で寝込む人がいたが、死者を出すには至らなかった(春の先触れ)

第2波 1918(大正7)年10月~19年5月頃
26・6万人が死亡。18年11月は最も猛威を振るい、学校は休校、交通・通信に
障害が出た。死者は19年1月に集中し、火葬場が大混雑になるほどだった(前
流行)

第3波 1919(大正8)年12月~1920年5月頃
死者は18・7万人(後流行)

 「前流行」では、死亡率は相対的に低かったが、多数の罹患者が出たので、
死亡数は多かった。「後流行」では罹患者は少なかったが、その5%が亡くな
るという高い致死率になった。

 興味深いのは、当時も「経済への打撃」や「医療崩壊」の危機があり、軍隊
など密な集団でクラスターが発生し、貿易港神戸で働く人や市電運転手など、
人の移動や接触が多い場所で働く人に感染が広がるなど、今と同じ現象が起き
ていることだ。それだけではない。当時も日本ではマスクの使用が奨励された
が、「アメリカのように強制的に、マスクを着けない者は電車に乗せないほど
ではなかった」(速水氏)という風に、百年前にすでに、「要請と自粛の日本文
化」と「ペナルティを科す西洋文化」というコントラストがあらわになってい
た。

2012年に刊行された「日本歴史災害事典」(北原糸子・松浦律子・木村玲欧編、
吉川弘文館)
この本に、スペイン風邪などの感染症は出てこない。

   その理由はなぜだろうか。多くの自然災害は発災時の被害が最大で、その
後、徐々に被害が減衰する経過をたどる。被害は見た目に歴然としており、被
害が甚大かどうかは一目でわかる。つまり、いかに悲惨であるかが「出来事」
として記録されやすい。

   だが、感染症は目に見えない。それは波状的に繰り返し襲いかかり、最初
の感染が最大の被害をもたらすとは限らない。むしろすでに感染して免疫を獲
得した人が、助かったり、感染社会を下支えしたりする。つまり、「出来事」
を記述する従来の歴史学の手法では、その規模や変遷を追うことが難しい。し
かも純然たる自然災害と違って、感染症は、為政者や専門家の対策の是非や、
それを社会のアクターや構成員がどこまで受け入れ、実行するのかという実効
性が複雑に絡んでくる。自然と人為が分かちがたく絡み合う複合現象なのであ
る。一筋縄ではいかない。

歴史や集合記憶から欠落しているということは、先人が対処した「歴史の知恵
」も埋もれてしまったことにほかならない。

上杉鷹山の「知恵」に学ぶ
磯田さんは、鷹山の天然痘対策から、非常時に指導者に必要な教訓を引き出し、
次の9点にまとめた。

教訓1 一番どこが困って悲惨か、洗い出しをやり、救いこぼしのない対策を
とる
教訓2 情報提供が大切。具体的にマニュアル化した指示を出す
教訓3 最良の方法手段を取り寄せ、現場の支援にこそ予算をつける
教訓4 専門家の意見を尊重し採用する
教訓5 非常時には常時と違う人物・事業が必要。変化をおそれない
教訓6 情報・予測に基づき計画し、事前に行動する
教訓7 リーダーは前提をチェックし、危うい前提の計画を進めないようにす

教訓8 自分や自分に近い人間の都合を優先しない
教訓9 仁愛を本にして分別し決断する

   磯田さんは、感染流行中には為政者や専門家の批判・非難はしないことを
自らのポリシーにしている。感染防止の施策に、いたずらな混乱をもたらして
はいけない、という配慮からだ。