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三十光年の星たち
« 投稿日:: 1月 20, 2016, 07:47:34 pm »
書名:三十光年の星たち(上)
著者:宮本 輝
発行所:毎日新聞社
発行年月日:2011/3/15
ページ:297頁
定価:1500円+税

書名:三十光年の星たち(下)
著者:宮本 輝
発行所:毎日新聞社
発行年月日:2011/3/15
ページ:290頁
定価:1500円+税

京都に住む二流大学卒の坪木仁志は30才、職を失い、恋人には借金だけを残して逃げられ、明日の生活の目処も立たない。金貸しの佐伯平蔵から借りた八十万円の借金を返せるあてもない途方に暮れた、坪木は自分の車を売って30万円でも返済したいと申し出る。

すると金貸しの佐伯平蔵は坪木の借金の返済の代わりに、返済の取り立てに出かけるときの運転手として雇いたいと言う。他に選択肢もない坪木は佐伯平蔵の申し出を受け入れる。それから佐伯平蔵と各地に点在する返済の滞る人びとのもとへ出かける。お金と取り立てそれぞれの人々の暮らしを見つめながら佐伯平蔵が若い坪木を育てていく。その過程が何気ない調子で語られる。三十年後、百年後、そして三十光年後をイメージして今をどう生きるか?壮大なテーマに挑んだ作品です。

本書より
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「十年でやっと階段の前に立てるんだ。二十年でその階段の三分の一のところまでのぼれる。三十年で階段をのぼり切る。そして、いいか、のぼり切ったところから、おまえの人生の本当の勝負が始まるんだ。その本当の勝負のための、これからの三十年間なんだ。そのことを忘れるんじゃないぞ。」

どの分野にも若くして天才と称される人がいる。しかし、そのうちの何人が、才能をさらに磨いて大成できたか。自らの才能を超えた大仕事を、年齢とともに成し遂げていく人間を天才というのだ。
「三十年間」に耐えられなかったからだ。「三十年後」というものに焦点を定めれなかったからだといってもいいし、「三十年間」を途中でどこかで投げ捨てて、うぬぼれていったと言い換えてもいい。

「働いて働いて働き抜くんだ。これ以上は働けないってところまでだ。もうひとつある。自分にものを教えてくれる人に、叱られつづけるんだ。これ以上叱られたら、自分はどうかなってしまうっていうくらい。このふたつのうちのどっちかを徹してやり抜いたら、人間は変われるんだ。悪く変わるのは簡単だが、良く変わるのはじつに難しい。だけど、このふたつのうちのどちらかをやれば、人間は良く変われる。だまされたと思って、やってごらん。」

「三十年前、ある人は私の作家としてのこれからの決意を聞くなり、お前の決意をどう信じろというのか、三十年後の姿を見せろ、と言ってくれたのだ。その言葉は、以来、かたときも私の心から消えたことはなかった。」とある。この言葉から読み取れるのは、この作品は宮本輝氏自身が「ある人」を師として一つの道を生き抜いてきた、その三十年間の総決算であり、心の自叙伝なのではないだろうか。