投稿者 スレッド: 橘花抄  (参照数 265 回)

admin

  • Administrator
  • Hero Member
  • *****
  • 投稿: 58826
    • プロフィールを見る
橘花抄
« 投稿日:: 2月 08, 2015, 03:49:00 pm »
書名:橘花抄
著者:葉室 麟
発行所:新潮社
発行年月日:2013/5/1
ページ:492頁
定価:670円+税

福岡出身の著者が地元の「黒田騒動」を題材として選んだ作品。両親を亡くして、親戚も誰も引き取りのなかった卯乃は14歳の時に筑前黒田藩で権勢を振るう立花重根(しげもと)に引き取られた。父の自害に立花重根が関与したと陰口を聞かされ、懊悩のあまり失明してしまう。立花重根は前藩主に重用されて信頼も得ており、仕事も抜群の家老として活躍するかたわら、お茶、和歌なども嗜み風流人。卯乃にも常に優しい。重根には若い頃(婿養子に行ってすぐ)津田天馬という剣士にさんざん負けて、藩内からも、養子先からもあきれ果てられ、養子を解消、生まれたばかりの娘を連れて立花家に戻って、その後諸国を放浪して剣術の修行をしていた弟峯均がいた。

現藩主に仕えていた。そして兄を守っていた。筑前黒田藩では「黒田騒動」の教訓を生かし、現藩主の兄(頭が切れる)を幽閉して愚弟が現藩主に。常に不満を持っていた兄はいろいろ策謀を図る。それを抑えていたのは立花重根。
前藩主が没すると、粛清が始まった。厳封、閉門、配流と立花一族を狙った反対派の追求は苛烈を極めた。「勝ち組」だった立花一族。その人生が一転する。峯均に右腕を切られた隻腕の剣士・津田天馬
、平手幹を彷彿させるじんぶん物描写、そして佐々木小次郎と宮本武蔵の巌流島を思い起こさせる場面など。(佐々木小次郎は津田小次郎と呼ばれていたとも、巌流島に武蔵が遅れたことになっているが、遅れてきたのは小次郎、そして彼は舟に乗ってやって来た。武蔵と逆に吉川武蔵は描いている)
男の世界を描きながら、そこに一途に生きる女卯乃が清新清冽な感じを与える。香道の話、お茶の話、和歌の話などなかなか面白い。「茶は現世を味わい、香は古の物語を聞く」「香を組み合わせることによって、源氏物語の世界を表す」

夏の野の繁みに咲ける姫百合の知らぬ恋は苦しきものぞ

2010年1月号掲載 著者との60分 『橘花抄』の葉室麟さん
http://www1.e-hon.ne.jp/content/sp_0031_i_20101217_2.html